コラム:中国とロシア、強面の裏は「内憂外患」

コラム:中国とロシア、強面の裏は「内憂外患」
8月2日、これまでのところ、2019年は西側の民主主義諸国にとって穏やかな年とはとうてい言えない。写真は6月、サンクトペテルブルクで開かれたフォーラムに出席したロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平・国家主席。代表撮影(2019年 ロイター)
Peter Apps
[ロンドン 2日 ロイター] - これまでのところ、2019年は西側の民主主義諸国にとって穏やかな年とはとうてい言えない。英国の欧州連合(EU)離脱を巡って暗雲が垂れ込め、来年の米国大統領選挙の行方も不透明だ。
だが、問題に直面しているのは彼らだけではない。西側の国々の中には、香港やロシアで起きている抗議行動は独裁権力の限界を反映しているという見方が多い。
香港では、強まる中国支配に抵抗する大規模なデモにより、本土の権力者を脅かすほど危機が深まっている。モスクワでは6月27日、野党候補者の地方選出馬を認めるよう求めた無許可の抗議行動が発生し、1000人以上が拘束された。プーチン大統領の強権に抵抗する反体制派に対する弾圧としては、ここ数年で最大規模に数えられる。
トルコのエルドアン大統領も、ここ数カ月は困難に直面している。イスタンブール市長選では、与党・公正発展党(AKP)とは非常に異なる綱領を掲げる野党政治家エクレム・イマモール氏が初回投票で勝利を収め、裁判所による不正認定で再投票が行われたものの、やはりイマモール氏の勝利は動かなかった。
トルコの権力層はこの結果を甘受している。だが、プーチン大統領や中国の習近平国家主席は、今後も抗議行動が続いた場合、どのように対応するだろうか。
中国政府はかつて、1989年の天安門広場での抗議行動を武力で押し潰した。4月に香港での抗議行動が始まって以来、香港駐留の人民解放軍は今のところ兵舎に留まっており、抗議への対応は香港警察に任せている。
だが一部の活動家は、犯罪組織によるものとされる抗議参加者などへの暴力的な攻撃は中国政府の意を受けたものと見ており、最悪の場合、天安門事件が再現されるのではないかと懸念している。
プーチン大統領は、2011年末に始まった一連の抗議行動の際は軍の動員なしに切り抜けているが、現在の抗議参加者や野党指導者らは威圧的な雰囲気があるとしており、抗議行動への規制を厳格化する法律も可決された。ロシアの反政権指導者であるアレクセイ・ナワルニー氏は先月、7月27日の抗議への参加を人々に呼びかけた後に拘束され、獄中で毒を盛られたと述べている。ただ国営病院は、毒物検査の結果は陰性だったとしている。
ロシアと中国の両政府は、西側諸国が抗議行動を操っていると批判している。2011年の「アラブの春」や、1980年代後半、共産党支配が崩れた東欧諸国で生じたほとんどすべての民衆蜂起について両国が抱いていた疑念を繰り返す形だ。
こうした疑念は、2016年の米国大統領選挙や他の欧州民主主義諸国の選挙へのロシアの介入疑惑に対して西側が示す懸念と対をなすものであり、理解できる部分もある。米国のオバマ政権も含め、西側諸国の政府は何年も前から、ロシアの反体制派を取り込もうと試みてきたのだ。
その一方で、過去30年に渡り、西側諸国の中では、ロシアや中国などの国は、スムーズではないものの確実に民主化や社会の開放、グローバル化された統合への道を歩んでいるという、暗黙の確信があった。プーチン氏登場後のロシアがこのシナリオの信ぴょう性を揺さぶっても、それは変わらなかった。
ロシア政府に対する批判者らは、プーチン氏による支配は、ロシア最大の石油企業で最大の民間企業でもあったユコスの最高経営責任者(CEO)だったミハイル・ホドルコフスキー氏が逮捕された2003年に、転機を迎えたという。ホドルコフスキー氏は05年、詐欺と脱税の容疑で懲役刑を宣告され、ロシア政府はユコスを接収・解体し、その資産を売却した。
もとより投資家は、ロシア資産に関して、地政学的問題に備えた大幅なリスクプレミアムを織り込んでいる。
香港で抗議行動が弾圧されれば、香港だけでなく中国本土からも、外国企業や投資、人材の急激な流出が起こりかねない。
香港における抗議行動の引き金になったのは、中国本土への犯罪容疑者移送を可能にする条例改正案だった。英国による香港統治を終らせ、香港住民に幅広い権利を認める「1国2制度」を定着させた、1997年の返還協定では明確に禁じられていた内容である。
その後、条例案は棚上げされたが、抗議参加者の多くはさらに大きな変革を切望している。ほとんどの人は香港を離れることはできない。そして現状のままだと、香港は今世紀半ばまでには中国本土の法律の下に置かれることになる。
だが、香港とロシアにおける不満の高まりは、政治や民主主義に関するものだけではない。経済的機会の乏しさ、格差拡大への不満、その他西側社会でもお馴染みの問題が山ほどある。香港における抗議行動は、2011年起きた「オキュパイ・ウォールストリート」運動の香港版から派生した部分がある。
プーチン大統領と習主席はともに66才で、後継者争いはすでに始まっている。抗議参加者など、もっとオープンな社会を切望している人もいるが、そうではない人もいる。そして、スーダンやジンバブエ、エジプトなどの国では、高齢化した指導者の退場後に、抑圧がさらに強まった例もある。
ロシアや中国は国内で不満を抑圧する一方で、対外的に挑戦的な行動とっている。
ロシアは、08年にはジョージア、14年にはウクライナに対して軍事力を行使したが、こうした動きは、功罪相半ばする結果をもたらした。香港の抗議行動を弾圧すれば、台湾の再統合という中国の目標は、いっそう困難な、あるいは不可能なものになりかねない。ロシアがクリミア半島をウクライナから奪取したことは、北大西洋条約機構(NATO)が東欧加盟国の防衛を強化する契機となった。
西側の体制も急速に変化する世界への適応に苦戦しており、ほとんどすべての国民が指導者に不満を抱いている。だが西側民主主義社会で暮らす人々は、西側で独裁体制と見られている国の場合とは違い、恣意的な逮捕や弾圧をさほど心配していない。
西側民主主義社会は開放的であるがゆえに、破滅的になりかねない危機を招くことなく社会の刷新や改革を実現することが可能だろう。また民主国家は、その社会の開放性によって脅かされる、あるいは損なわれるのではなく、むしろそれによって守られていることに気づくべきだ。
開放的でない国家の将来を予想することはより難しい。だが、嵐のなかを無事に切り抜ける道が見つかることを願いたい。
*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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