コラム:米巨大IT企業の規制、本当の「負け組」は中小企業
Jennifer Saba Gina Chon
[ニューヨーク/サンフランシスコ 28日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 一部の米議員はフェイスブックなど米IT(情報技術)大手の社会的な影響力のそぎ落としを望んでいる。そうなれば結局のところ、デートサイトや企業情報サイトなどを運営する小規模なIT企業も取り返しの付かない打撃を被るだろう。政治家が改革の武器に選んだインターネット関連法の見直しは、いかにも大ざっぱ過ぎる。
問題となっているのは1996年に制定された「通信品位法230条」。この条項はSNS(交流サイト)運営などIT企業について、プラットフォームへの投稿内容については法的責任を原則問わないと定めている。しかし一方でネット企業にかなり広範な権限を与え、「善意」に基づいて行動する限り、有害な投稿を自由に管理できるとしている。
米議会上院の委員会で28日開かれた公聴会にはフェイスブック、ツイッター、グーグルの親会社アルファベットの経営トップが出席し、ネット企業に与えられたこうした特権の是非が問われた。
フェイスブックのザッカーバーグ氏は、議会は一致団結して通信品位法を見直すべきだと述べたが、それがつまり何を意味するかについてほとんど手掛かりを示さなかった。ツイッターのドーシー氏は、オンラインプラットフォームによる判断の透明性を高め、信用を向上させるよう訴えた。ただ、公聴会は共和、民主両党による自説の主張が大半を占めた。共和党はIT大手が保守派の声を抑え込んでいると訴え、民主党は共和党が大統領選直前にトランプ大統領個人の主張を後押ししているだけだと主張した。
問題は、通信品位法230条の恩恵を受けているのはIT大手だけではない点だ。投稿内容の監視には人手と資金が欠かせないが、中小企業にそうした余力はない。飲食店などの検索・評価サイトを手掛ける上場企業イェルプは6月末時点の手元現金が5億2600万ドル。アルファベットは同1210億ドルだった。ツイッターのライバルで、一部保守派層に人気の高いパーラーなども打撃を受けるだろう。
IT企業にとっての脅威は法的責任免除の見直しだけではない。議員の中には、通信品位法230条を改正し、IT企業が削除したり、警告を発したりできる対象をもっと具体的に定めるよう求める声がある。バー司法長官は企業が「不快と感じるもの」と見なせる内容の範囲を狭める案を支持している。そうなればIT大手が投稿内容の監視に前向きではなくなり、インターネット上に有害な内容が広がり、偽情報の拡散をチェックするのが難しくなるだけかもしれない。
どちらに転んでも、通信品位法230条の見直しは魅力に欠ける。廃止すればSNSの巨大プラットフォームはさらに強固になるだろう。あまりにも具体的な内容にしてしまえばIT企業に不干渉の口実を与え、社会に悪影響が生じる恐れがある。ツイッター、フェイスブック、アルファベットの合計時価総額は2兆ドル近く、政治家にとって格好の標的だが、ネット改革で負け組になるのはこの3社ではないだろう。
●背景となるニュース
*米議会上院の商業科学運輸委員会は28日に公聴会を開き、1996年に制定された通信品位法230条によりIT企業が有害な行動を取ることが可能になっているかどうかを検証した。
*公聴会にはツイッターのジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)、アルファベットのスンダー・ピチャイCEO、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが出席し、委員から質問を受けた。
*通信品位法230条は、一部の例外を除き、インターネット企業は運営するプラットフォームの投稿内容について法的な責任を問われないと定めている。また、ネット企業は善意に基づく限り、「不快と感じるもの」など特定の投稿内容を削除することができるとしている。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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