コラム:ボリビア大統領、経済政策の成功が「転落」の引き金に

コラム:ボリビア大統領、経済政策の成功が「転落」の引き金に
11月11日、10日に辞意を表明したボリビアのモラレス大統領は、自身がクーデターの犠牲者だと訴えた。写真はブエノスアイレスで、モラレス氏の写真を掲げる支持者(2019年 ロイター/Agustin Marcarian)
Anna Szymanski
[ニューヨーク 11日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 10日に辞意を表明したボリビアのモラレス大統領は、自身がクーデターの犠牲者だと訴えた。実際のところは、成功を収めた自らの政策の犠牲になったのかもしれない。
ボリビアはモラレス氏が大統領になって貧困層が減り、同氏は約14年間の在任を謳歌した。しかし、この中間層の拡大が、選挙不正に声を上げる動きをもたらした可能性がある。こうして当のモラレス氏が辞任に追い込まれるという、皮肉な流れになった。
反モラレス氏の抗議活動は、10月20日の大統領選直後に勃発した。不自然に一時停止した暫定集計が再開されたとたんに、有力な対立候補とモラレス氏の得票率差が10%を超え、決選投票が回避されることになったからだ。
国際的な監視機関の米州機構(OAS)は、選挙で不正が行われたとする報告を発表。ボリビア軍部が同氏に退陣要求を突き付けた。
ボリビアの経済状況を振り返ると、騒乱は意外に見える。モラレス政権下で南米のどの国よりも、貧困層が大きく減少。大統領在任期間は、中南米の現職として最長だった。
国家統計庁によると、中間層の割合は2005年から17年にかけて35%から58%に拡大。国際通貨基金(IMF)は、モラレス氏在任中の国内総生産(GDP)の平均成長率が4.8%に達したとのデータを示している。
しかし、政治的な不正がなかったとしても、ボリビア経済の先行きは不透明だ。繁栄を支えた商品市況のブームは終息。貿易収支と財政収支はともに赤字だ。
原油価格の高騰を背景に、天然ガスや鉱物資源を輸出し、その収入を大規模な財政支出を通じて配分するという政策モデルは、今後、修正が避けられない。
中間層が増えたといっても、富裕な先進国の基準に照らせば、満足のいく水準ではない。IMFによると、ボリビアの国民1人当たりGDP(年間)は3500ドル前後で、南米で最も低い部類に入る。
世界開発センターのナンシー・バーゾール氏は、新興国で比較的新しく中間層に仲間入りする人々を「触媒層」と定義した。この不安定なグループが、ブラジル、トルコ、チリなどの国でも、政治腐敗への抗議行動で中心的な存在となっている。
これは、野心的な中間層が力を持ちつつある他の新興経済国にとっても教訓となる。暮らしにゆとりが出るほど、国民は政治指導者の不正に寛大でなくなることがあるのだ。そもそも指導者が良い変化をもたらすのを助けたのであっても──。
●背景となるニュース
*ボリビアのモラレス大統領は10日、軍の退陣要請を受けて辞任を表明した。モラレス氏は、先月20日の大統領選後に広がった抗議デモの鎮静化を図るための退任と説明。リネラ副大統領も同日辞任を表明した。モラレス氏は2006年に大統領に就任した。
*米州機構(OAS)はボリビアの先月の大統領選について、正確さを保証できず、投票手続きが「明らかに操作された」とした。また、モラレス氏が接戦だった対抗馬のメサ元大統領に10%ポイント以上の差をつけるのは、統計上あり得ないとも指摘した。
*ボリビアの法律は大統領と副大統領が辞任した場合、上院議長が暫定的に大統領職を継承すると定めている。しかしサルバティエラ上院議長も10日に辞任を表明した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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