コラム:国債需要を支えるデフレ見通しの「落とし穴」

コラム:国債需要を支えるデフレ見通しの「落とし穴」
 6月5日、長期国債は、今後もデフレが続くという根強い見通しの下に投資家の買いを集めている。2018年撮影(2019年 ロイター/Dado Ruvic)
Edward Hadas
[ロンドン 5日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 長期国債は、今後もデフレが続くという根強い見通しの下に投資家の買いを集めている。しかし足元ではインフレを押し上げかねない新たな要因が浮上しており、今回も歴史が繰り返すとは限らない。
高格付けソブリン債の引き合いは強く、指標となる10年物米国債の利回りは、米国の財政が大幅に悪化する見通しであるもかかわらず、昨年11月の3.3%から2.1%に低下。昨年の財政収支が黒字のドイツは10年物国債利回りが11月の0.47%からマイナス0.2%に下がった。
投資家がマイナス利回りの国債を購入したがるのは、世界的に景気が減速してインフレ圧力が弱まっているためだ。3日公表の5月の米製造業購買担当者景気指数(PMI)改定値が2009年以来の水準に悪化するなど、景気減速は既に顕在化しつつある。各国中央銀行も低金利政策をさらに長期化せざるを得ないだろう。こうした経済環境では、利回りがさらに下がる前に長期国債を買うのは理にかなう。
しかし株価は比較的底堅く推移しており、債券市場の景気悲観論とは対照的に見える。もっとも株価は低金利政策によって押し上げられることも多い。
それよりも謎なのは、現行水準の利回りで最高位格付け国債を買うのが良い投資だという考え方だ。債券投資家は通常、実質成長率にインフレ率を加えた名目成長率並みのリターンを求めるものだ。
米国の過去10年間の実質GDP成長率は2.2%、平均インフレ率は1.6%。今後の10年間も成長率が同程度なら国債のリターンは名目成長率に届かず、長期国債買いは非合理な投資戦略に思える。
しかし投資家はさえない景気見通しについて別の解釈をしているのかもしれない。
景気見通しが悪化すれば、40年近くに及ぶインフレ率の低下傾向に終止符が打たれる確率は低下する。1980年3月以来、米国は物価の循環的な変動における「山」と「谷」の水準が切り下がっている。
今回はこの流れに変化が生じてもおかしくなかった。
米国は数年間にわたってかなりの高成長が続き、失業率が記録的な水準に下がり、企業利益が増加したことで、やや控え目ながらインフレの炎が再点火される可能性があった。しかし米景気は失速しつつある。次の景気サイクルで平均インフレ率がさらに1%ポイント低下するなら、2.2%という名目リターンでも立派に見えるだろう。
しかしながら、ディスインフレ傾向が根強く続くかどうか考えるときに注目すべき新たな材料が2つ考えられる。
1つは財政政策。かなりのマイナス金利でも景気刺激効果が上がらなければ、各国政府はかなり踏み込んだインフレ政策の導入に動くだろう。代表的なのは最低賃金や公務員給与の大幅な引き上げだ。あるいは物価全般が上昇し始める水準まで、財政赤字を膨らませるかもしれない。
2つ目は無秩序な貿易戦争による物価上昇だ。トランプ米大統領の場当たり的な貿易政策がサプライチェーンに打撃を与え、企業は地元で工場や技術への割高な設備投資を迫られる恐れがある。そうなれば消費者の負担するコストと商品の価格は上がるだろう。
長期にわたって続くディスインフレ傾向は反転しないかもしれず、その場合は、過去半世紀と同様に、長期国債買いは賢明な投資だろう。しかし金融資産が材料を完全に織り込んでいるときには、ほんの小さな染みが見つかっただけでも大きな犠牲を払うことになり得る。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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