コラム:ECB内の亀裂露呈、ラガルド氏に期待される調整力
Swaha Pattanaik
[ロンドン 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、11月1日に後を引き継ぐクリスティーヌ・ラガルド氏の政策運営を手助けするためにできることは全てやり尽くした。だがユーロ圏の景気刺激に向けたその大胆な措置が、ラガルド氏にとって早くも就任前から別の悩みを生み出しつつある。
頭痛の種は、ドラギ氏が9月に発表した一連の金融緩和パッケージに対して、ECB内部から公然と反対する声が強まっていることに起因する。緩和パッケージの中には債券買い入れを再開し、ECBが利上げする直前まで継続していく方針が含まれていた。そして10日の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)で、不協和音が改めて確認された。FTによると、ドラギ氏は、債券買い入れを再開するべきではないというECBの金融政策委員会の助言を無視したのだ。大半のメンバーがユーロ圏19カ国の中銀の事務方で構成される同委員会の助言は、拘束力はない。
その1週間足らず前には、6人の元ECB高官が、ドラギ氏の8年の任期中に採用された超緩和的な政策を批判する文書を公表している。さらに緩和パッケージを決めた9月12日のECB理事会では、ユーロ圏域内総生産(GDP)の半分強に相当する国々の中銀総裁が反対票を投じた。
こうした公然もしくは非公然の批判は、利回りが既に非常に下がっているのに、まだECBが債券を買い増すことへの不満が反映されている。債券の電子取引を手掛けるトレードウェブが公表した3日時点のデータでは、同社のプラットフォームで取引されているユーロ圏国債の3分の2余りはマイナス利回りだった。
ドラギ氏のやり方にもいら立ちを感じる向きがあるのかもしれない。同氏はしばしば、まず非常に踏み込みながらも内容をぼかした政策措置を発表してから、詳細を詰めつつ合意を形成する方法を取ってきた。その最たる例は2012年、ユーロ防衛のために「できることは何でもやる」と約束をしたことだった。
反対意見が相次いで表明されたからといって、ECBが現在の政策をすぐにやめることはない。路線転換すれば、信認があまりにも大きく傷ついてしまう。しかし反対派の存在は、ラガルド氏がいくつかの課題に取り組む必要性を浮き彫りにしている。同氏が最優先で着手を迫られるのは、理事会内のあつれきを取り除き、各国中銀総裁らに自分たちの意見が取り上げられるのだと確実に思ってもらうことだろう。幸いにも、そうした政治的調整は同氏の得意分野だ。
●背景となるニュース
*英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は10日、ECBのドラギ総裁が、債券買い入れを再開すべきでないとするECBの金融政策委員会の助言を無視したと報じた。同委員会のメンバーはユーロ圏19カ国の中銀の事務方で大半が構成されている。
*FTが3人の理事会メンバーの発言として伝えたところでは、金融政策委員会はドラギ氏や他の理事会メンバーに対して、9月理事会の数日前に助言を記した書簡を送った。
*9月12日の理事会で、ECBは中銀預金金利をマイナス0.4%からマイナス0.5%に引き下げ、11月1日から毎月200億ユーロ相当の債券買い入れを再開すると決定。債券買い入れは利上げ直前まで続けると説明した。
*金融政策委員会の助言に拘束力はないが、ドラギ総裁の8年の任期中、理事会が助言に従わなかったケースは一握りにとどまるという。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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