アングル:英国のEU離脱劇、首相に残された「3つの選択肢」

[ロンドン 16日 ロイター] - 英国の欧州連合(EU)離脱期日まであと10週間となったが、離脱の形がどうなるか、あるいは本当に離脱するのか不透明だ。
英議会が15日にEU離脱提案を否決したことで、野党の協力を仰いで新たな方針を打ち出さない限り、メイ首相は合意なき離脱かブレグジット(英のEU離脱)撤回を選ばざるを得なくなる。
残された選択肢は次の通り。
●政治的妥協
メイ首相は、15日の否決を受けて、妥協点を探るため議会指導部と対話すると表明。金融市場は、議会が結局はぎりぎりの段階で事態収拾に向けて結束するだろうとみている。
野党・労働党で影の財務相を務めるジョン・マクドネル氏は、もしメイ氏がEUの関税同盟に恒久的にとどまることを受け入れるなら、労働党はこれを支持すると発言した。これは英国が単一市場と緊密な関係を保ち、労働者や消費者がより手厚く守られる道だからだ。
メイ氏が属する保守党は内部の意見対立が非常に深いため、労働党が離脱の最終的な行方に及ぼす影響は大きい。実際、下院で労働党議員256人の一部が賛成に回らない限り、離脱に関するどんな提案も可決にこぎ着けるのは難しい。
ただメイ氏が労働党の立場に距離を縮めれば、保守党内の離脱推進派や閣外協力する北アイルランドの民主統一党(DUP)の支持を失いかねない。
メイ氏が妥協を導き出せない場合は、総選挙に打って出るか、離脱の延期または合意なき離脱のどれかを選ぶことになる。
多くの保守党議員はこのような重大局面で選挙戦を展開することに反対している。2017年の総選挙ではメイ氏が過半数割れに追い込まれている。メイ氏自身も16日、総選挙は「われわれができる中で最悪の行動」だと語った。
EUのバルニエ首席交渉官は、英国が前に進める1つの方法は、EUの規制に対しより足並みをそろえることだと指摘。複数のEU高官は、例えば英国はEUの関税同盟と単一市場の離脱方針を放棄することができるとの見解を示す。もっともそうした姿勢は、多くの保守党議員の支持を得られそうにない。
●合意なき離脱
 1月16日、英国の欧州連合(EU)離脱期日まであと10週間となったが、離脱の形がどうなるか、あるいは本当に離脱するのか不透明だ。写真は15日、ロンドンで撮影(2019年 ロイター/Eddie Keogh)
合意なき離脱に関しては、英議会の大多数と多くの企業が猛反対しているが、議会が新たな提案に合意しない限りは実現することになる。
ある有力議員は「メイ氏の提案が嫌だというだけでは不十分で、何らかの合意を代わりにまとめなければならない。さもないと合意なしで離脱することになる」と警告した。
合意なき離脱に移行期間はなく、突然迎えることになる。国際展開する企業には悪夢である半面、EUと完全に縁を切りたい強硬離脱派にとっては夢がかなう。
英国は世界貿易機関(WTO)に加盟しており、合意なき離脱後のEUとの関税やその他貿易条件はWTOのルールに基づく。
企業側は既に、合意なき離脱による通関手続きなどを見据えた緊急対策を発動しつつある。
離脱推進派は、短期的に混乱が起きるとしても、ドイツが支配し、中国や米国の後塵を拝するような政治システムから離脱できれば、長期的には英国に繁栄をもたらすと強調している。
●離脱撤回
2016年の国民投票以降、離脱反対派は逆の結果を期待して投票の再実施を求めている。ただメイ氏は繰り返し、16年に離脱に賛成した人たちの意思を踏みにじるとして再実施を否定してきた。
再実施は議会が認めた場合のみ可能だが、現段階で過半数が再実施を支持しているわけではない。
労働党は総選挙を求めており、それが拒否された場合は初めて国民投票の再実施を検討するだろう。コービン党首は古くからの欧州懐疑派で、過去には再実施には反対の考えを表明している。
一方、親EU派の保守党議員ドミニク・グリーブ氏は16日、新たな国民投票の実施ができるようにするための法案を提出した。
議会が再実施に同意すれば、英政府はEUに離脱の延期を要請しなければならなくなる。選挙管理委員会は、国民に対する質問内容について意見をすり合わせる必要も出てくる。
政府高官の間では、国民投票を再実施すれば16年の投票が引き起こした分断がさらに深刻化しかねないと懸念している。今後、EU残留派が多数となれば、離脱推進派は再々実施を迫るかもしれない。

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