コラム:功罪あざなうパッシブ投資、「株主民主主義」に重い課題

コラム:功罪あざなうパッシブ投資、「株主民主主義」に重い課題
 米国では8月にパッシブ・ミューチュアル・ファンドへの投資額がアクティブファンドを上回った模様だ。写真はニューヨーク証券取引所のスクリーンに映し出されたスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)インデックス。2016年11月22日撮影(2019年 ロイター/Brendan McDermid)
Edward Hadas
[ロンドン 2日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 思慮深い無為か、それとも危険な慢心か。パッシブ投資ブームには両方の匂いがする。
流れは明白だ。個別株の物色を放棄し、株式市場インデックスに従う投資手法は既定路線になりつつある。モーニングスター・リサーチが先週公表したデータによると、米国では8月にパッシブ・ミューチュアル・ファンドへの投資額がアクティブファンドを上回った模様だ。アクティブファンドの市場シェアは49.9%と、10年前の約75%から縮小した。
その理由も明白だ。大半のアクティブ運用は投資家、とりわけ運用額の小さい投資家を散々な目に遭わせている。株式の取引と銘柄物色のコストがのしかかる。市場平均を上回る収益を得るには、これらのコストを相殺できるほどのリターンが必要になる。継続的にそうした結果を出せるマネジャーがほとんどいない以上、「市場を追う」のは道理にかなう。
パッシブ投資は、株式市場が抱える問題をひとつ解決してくれる。弱小投資家が馬鹿を見るという問題だ。もはや手数料や取引コストが収益に大きく食い込むことはない。バンガードの創業者、故ジャック・ボーグル氏が見れば誇らしく思うことだろう。パッシブ運用の旗振り役だった同氏は、自らの情熱の正しさが立証されるのを目にすることなく、今年1月に逝去した。
パッシブ投資の台頭によって対処できる問題はもうひとつある。目端の利く投資家、別名「スマートマネー」が市場との近さを利用して不当に利益を得るという問題だ。目まぐるしく売買が飛び交う市場では、素人投資家は締め出される。儲けは大衆資本主義の中心に立つべき一般人をだしにして得られる場合が多い。楽にカネを稼ぐ金融業の印象は悪くなる。格差拡大が政治問題化している昨今ではことさら具合の悪いことだ。
安定的で受動的な運用が増えれば、貪欲に利益を追う市場参加者の「餌」は減る。スマートマネーが集まるヘッジファンドが劣性を続けているのは、物色できる銘柄が減っているためだ。ユーレカヘッジの北米ヘッジファンド指数は8月に前年同月比6%上昇したが、上昇率はS&P500種総合株価指数<.SPX>の17%に遠く及ばなかった。
<成長株への潜在投資を封じる>
ただ、パッシブ投資が常に最適というわけではない。能動的に銘柄を選別する運用者ではなく、市場に追随するコンピュータープログラムが運用すれば、例えば自社株買いや新株発行に参加するかどうかの判断において不利になる。一例を挙げれば、非民主的な企業統治を採るハイテク企業は一部の株式指数から排除されるため、パッシブ投資家はこれら企業の上場に加わることができない。
新株発行市場にパッシブ投資が参加しないことの代償は、当の投資家の利益にとどまらないかもしれない。株式市場全体の経済的価値を減じるのだ。数十年来、株式市場の主な目的は、企業が比較的小口の投資家から資金を調達するのを助けることだと考えられてきたが、もはやそうした機能は衰えた。中間層や労働階級による株式の購入は、19世紀に鮮明だった資本と労働の分断を和らげるのに一役買った。
パッシブ投資をさておいても、資本と労働の分断は再び鮮明化している。労働者による資本提供への参加といえば、低賃金労働を通して企業の利益を拡大する形がほとんどだ。成長途上の企業は資金調達をほぼ完全に未公開市場に頼っているため、労働者がこれら企業に投資する機会はほとんどない。新規株式公開(IPO)は往々にして最良の時機が過ぎ去ってから実施される。インサイダーが株を売り出して大儲けするか、配車大手ウーバー・テクノロジーズやフィットネス企業ペロトン・インタラクティブのIPOがそうであったように、素人の投資資金が赤字企業の株価をつり上げるのに使われる。
パッシブ投資の台頭により、成長株の潜在的投資家の多くが奪われ、公開市場で成長資金を調達する魅力が薄れている。ポピュリズム(大衆迎合主義)に反対し資本主義を支持する政治家は、小口投資家が資本主義経済の中心から切り離されていることを憂慮すべきだ。
<「経済の寄生者」という見かけ>
パッシブ運用の優勢は、今日の株主資本主義が抱えるもうひとつの機能不全に拍車をかけている。インデックスファンドは、企業に物言うアクティブ投資家や、企業の社会責任を監視する投資家を組み込むのに適していないからだ。
株主民主主義にはやっかいな問題がつきまとう。株主は取締役を選ぶが、大半の株主は企業と経済についての知識が乏しく、十全な判断が下せない。しかしアクティブ投資家は少なくとも能動的なステークホルダーだと考えて良い。パッシブ(受け身の)投資家は言葉の定義からして、ポートフォリオを構成する数多くの企業のひとつで何が起ころうが、あまり気にしていない。パッシブファンド運用最大手の米ブラックロックは、こうした状況を改善したいと望んでいるが、道のりは険しい。
パッシブファンドの無関心には、他にも潜在的に深刻な欠点がある。現代の資本主義を批判する人々が以下の慣行を見たら何と言うだろう。パッシブ運用を行う集団は意思を持たない。既存株を買うだけなので、経済に新規資本を提供していないに等しい。企業経営陣への意見も出さない。自らの配当収入を最大化することにしか関心がないのだ。
こうして見ると、パッシブ運用投資家は経済の寄生者にしか映らない。これが不当な言い分であるのはもちろんだ。しかし見かけは現実よりも世論に大きな影響を与えることがある。
資本主義という体系自体を批判している人はまだ少数派だ。しかし来年の米大統領選の民主党候補であるエリザベス・ウォーレン上院議員などは、劇的な金融改革を公約して人気を得た。今のところ、パッシブ投資は彼女らの視野に入っていない。パッシブ投資の提唱者らはこの状態を維持するため、もう少しアクティブに動いた方が良さそうだ。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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