コラム:サウジアラムコ、財務公表でも消えない独立性への懸念
George Hay
[ロンドン 1日 ロイター BREAKINGVIEWS] - サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコが、普通の会社に見えるように最善を尽くしている。1日には石油化学大手サウジアラビア基礎産業公社(SABIC)<2010.SE>の株式70%を690億ドルで取得するための初の社債発行に向け、469ページに及ぶ目論見書を公表した。
アラムコの数字は予想通り膨大だ。2018年の利益は1110億ドルで世界最大。借り入れが270億ドルあるにもかかわらず、手元資金は220億ドルにのぼる。公開情報がないため、これまで投資家はアラムコの富を推測するしかなかった。
問題は、こうした大きな数字だけで、海外投資家に100億ドル以上と予想される社債の購入を説得できるのか、投資家が事実上凍結状態のIPO計画を支持するのか、ということである。アラムコはジャーナリストのジャマル・カショギ氏殺害に関与したサウジの国有企業。SABICの案件は政府の干渉の危険性を浮き彫りにしている。
だが目論見書は、アラムコが少なくとも厳しい交渉を引き出せることを示している。長期にわたる交渉の末、アラムコはSABIC株取得費用の半分だけを、政府系ファンドのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)に前払いすることで合意した。残りは20年と21年に支払われる。特別に10億ドルを支払わなければならないが、アラムコが容易に全額を支払うことができることを考えると、この取引に依然一定の独立性があることを示唆している。
目論見書のその他の内容も同様だ。アラムコは現在、政府に石油を固定価格で販売することで補償金を得て、売り上げの32%をロイヤルティーと税金で支払っている。この水準は16年は59%だった。公的部門の顧客の支払い分の補償もある。
ただこうしたことは、投資家が将来のIPOに飛びつくことを意味するものではない。アラムコが本当に独立していれば、SABICを買収することはなかったかもしれない。この買収の主な利点は、IPOが遅れてもPIFの資金を維持することだった。アラムコに対する強気筋は依然として固執すべき点がある。
●背景となるニュース
・サウジアラムコが1日公表した初の社債発行の目論見書によると、昨年のEBITDA(金利・税金・償却前利益)は2240億ドルで米アップルのほぼ3倍。
・PIFからSABIC株を690億ドルで取得するため社債を発行にあたり、これまで消極的だった財務内容の公表に踏み切る。
・格付会社のフィッチとムーディーズはアラムコをそれぞれAプラスとA1に格付け。国営企業であるため国債格付けと同水準。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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