アングル:孤立するミャンマーに中国「一帯一路」の甘い誘惑

Shoon Naing Simon Lewis
[ヤンゴン 7日 ロイター] - ミャンマーの与党・国民民主連盟(NLD)が結成されたのは、独裁政治に抵抗する最中だった。軍事独裁政権下にあって、NLDの活動家たちは獄中で何年も過した。
だが、3年前に政権を獲得して以降、ノーベル平和賞受賞者でもあるアウン・サン・スー・チー国家顧問率いるNLDは、当時からすれば考えられないような相手と手を組んでいる。中国共産党だ。
友好関係はスー・チー氏と中国の指導者ら上層部の交流の中で培われてきたが、党員レベルの中国訪問にも支えられている。その中身は、コンテナターミナルや教育プロジェクトの視察、ぜいたくな夕食、買い物などさまざまだ。
こうした往来は、ミャンマーを習近平国家主席の看板政策「一帯一路」の主要拠点にしようとする中国の取り組みの一環だ。中国は外資の誘致に必死のミャンマーに、大型船が出入りできる深い港や、水力発電用ダム、経済特区の建設などを持ちかけている。
ロイターは、中国に招待されて訪中したNLD党員や国会議員20人以上を取材した。中国政府はこうした取り組みを通じ、ミャンマーが中国に抱いている歴史的な不信感や、巨大な隣国に借りを作ることへの警戒感を取り除きたいと考えている。
NLD機関誌の編集者、Aung Shin氏は「かつてミャンマーと中国の関係は、政府間のやり取りにとどまっていた。(中国が)相手にしていたのはミャンマーの将軍たち。国民は彼らに好感を抱いていなかった」と語る。
中国から招待が相次ぐようになったのは2017年、ミャンマーと西側諸国との関係が冷え込んでからだ。北西部ラカイン州で軍が70万人のイスラム系少数民族ロヒンギャを弾圧、ミャンマーはバングラデシュに逃れた難民のをめぐって厳しい批判を浴びていた。
国連の安全保障理事会でミャンマー軍に厳しい対応を求めた際にも、中国は隣国ミャンマーを擁護した。
かつて政治犯だったAung Shin氏のような忠実なNLD支持者は、中国がミャンマーに示す好意を歓迎している。
「彼らは以前の中国とは違うということを示したがっている。私たちを招待し、国内を見せて回ろうとしている」と、Aung Shin氏は言う。彼は2013年から、少なくとも10回は視察旅行で訪中している。
<国家主導の開発>
ミャンマーにおける中国の「ソフトパワー」作戦は広範囲にわたる。
NLDの広報担当者Myo Nyunt氏によれば、同党は2016年以降、少なくとも20回は代表団を中国に送っている。中国は招待する対象を、軍部系の野党やその他の政党、市民団体やメディアにも広げている。
取材に応じたNLD関係者によれば、中国はミャンマーからの視察団に対し、国家主導で抵抗を受けずにインフラ整備を進める手法を紹介しているという。また、訪中した複数の関係者によると、最高級の白酒がふんだんに振る舞われ、ぜいたくな食事も提供されたという。
Helen Aye Kyaw氏はNLD婦人部の一員として、今年6月に初めて中国を訪れた。中華全国婦女連合会の招待によるもので、共産党の幹部学校を見学し、農村部における貧困撲滅に向けた中国の取り組みを学んだという。
同氏によれば、参加者が病気になった場合に備えて中国人の医師らが付き添い、北京で買い物する際には480元が支給されたという。
こうした接待にもかかわらず、NLD指導部は、訪中に党員が影響を受けたということはない、重要な勉強の機会だったと話す。
NLDに所属する代表的な研究者、Myo Yan Naung Thein氏は「ミャンマーの政治家は愚かではない。中国の思いのままにはならない」と語る。
ロイターは中国外務省に、視察旅行について問い合わせた。同省は文書で回答し、NLDなどミャンマーの政党との関わりは、対等かつ「互いに内政不干渉」という立場で進めているとした。
「中国共産党は外国のモデルを『輸入』することもなければ、中国のモデルを『輸出』することもない。中国のやり方を『コピー』するよう他国に求めることもない」
<「友人」を求めるミャンマー>
中国は当初、スー・チー氏に対して懐疑的だった。長年、西側諸国から民主主義の旗手ともてはやされていたからだ。
「スー・チー氏が米国の手先のような存在にすぎないのか、彼女の思想やイデオロギーがどの程度『欧米化』されているのか、中国は知りたがっていた。まもなく、彼女の独立性が非常に高いことがわかった」と、NLD中央執行委員会のメンバー、Han Tha Myint氏は話す。
ロヒンギャ問題が発生して以降、スー・チー氏は、虐待疑惑(ミャンマーは否認している)への措置を求める国をほとんど訪問していない。
NLD広報担当者のMyo Nyunt氏は、「スー・チー氏はわが国が何を得られるかという基準で訪問先を選んでいる」と語る。「その国が独裁的か民主的かは関係ない。わが国は親密な友人を求めている」
専門家や外交関係者の中には、中国がミャンマーと西側諸国の関係悪化につけ込んでいるとの見方がある。
ヤンゴンに駐在する西側外交官の1人は、「中国は、自国が国連安保理に参加していることを利用して、大きな成果を引き出している。つまり、『一帯一路』だ」と語る。
<説得工作>
訪中団に参加したあるNLD関係者に話を聞くと、ミャンマー国内で台頭しつつある政治階層に、中国がいかにして友人を見つけようとしているかが伝わってくる。
英国植民地時代の首都だったヤンゴンを拡張するある「一帯一路」計画は、昨年5月に中国交通建設がコンサルタンティング契約を結んだ後、ミャンマー側が提供する土地の広さや、収益配分の公平性をめぐって地元政治家から反発が起きた。
数カ月も経たないうちに、視察旅行が企画された。これに参加した関係者2人と、視察時に投稿されたフェイスブックの書き込みによると、ヤンゴンの地元政治家らは2018年9月に中国を訪れ、中国交通建設の幹部と面会、同社が建設した上海近郊の陽山港を訪れている。
参加者の1人で、はっきりした物言いで知られるNLDの国会議員Sandar Min氏は、「彼らのプロジェクトのための説得工作だと理解した」と話す。「良いホテルをあてがわれ、美味しい食事でもてなされた」
視察に参加したからといって、ヤンゴンのプロジェクトに懸念を表明しなくなることはない、とSandar Min氏は話す。それでも、中国式の開発モデルを再評価するきっかけになったという。
「中国は20年で急速に発展した。道路も見違えた。一党独裁体制のおかげなのだろうか」と、同氏は言う。「あの国では、進行するプロジェクトに異を唱える者は1人もいない」
(翻訳:エァクレーレン)

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