焦点:米大学の危険なパートナー、中国AI監視企業が資金援助

Alexandra Harney
[上海 13日 ロイター] - 米マサチューセッツ工科大学(MIT)と、少なくとももう1校の大学が、中国新疆ウイルグル自治区の警察当局と取引のある中国の人工知能(AI)関連企業と研究パートナーシップを結んでいたことが分かった。
同自治区では、当局によるウイグル族取り締まりが国際的な非難の的となっている。
2016年の政府調達発表によると、中国音声認識AI大手の科大訊飛(アイフライテック)の子会社が、同自治区カシュガルの警察が調達した声紋収集システム25機の単独納品元だった。
同社の別の子会社は、同自治区にある刑務所運営機関と「戦略的協力の枠組み合意」に署名していたことが、同子会社が2017年5月に無料メッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」に投稿した内容から判明した。
中国当局は、声紋認識技術を使って人々を追跡し特定することができると、人権活動家は指摘する。
これらの大学が、アイフライテックの技術開発に直接貢献したり、同自治区での使用を念頭に大学の研究が行われたことを示す証拠は得られていない。
それでも一部の米大学は、米中貿易摩擦や米政府による中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)への締め付け、また同自治区での人権侵害報道を受けて、中国テクノロジー企業との協力関係を再点検している。
例えば、MITは4月、米政府が安全保障上のリスクと位置付けるファーウェイや中興通訊(ZTE)との協力を打ち切った。カリフォルニア州立大バークレー校などの大学も、ファーウェイが出資する全ての研究協力を停止した。
アイフライテックの担当者は、「一部の協力や内容は、安全保障に関連がある」とした上で、MITでの研究は「AIを使って美しい世界を作るという共通の理解に基づくものだった」と、ウィーチャット経由でロイターにコメントを寄せた。また、アイフライテックは「社会的に責任ある企業だ」と述べた。
MITは昨年、同大の著名なコンピューター科学・人工知能研究所(CSAIL)が行う研究プロジェクト3件に、アイフライテックから資金提供を受ける5年契約に署名した。それらのプロジェクトは、ヘルスケア部門でのAI活用、言語認識、そしてCSAILが「よりヒューマンな」と表現したAI開発だ。
「CSAILは、これらを巡る懸念について認識しており、検討を行った。しかし、これら3プロジェクトの研究成果はすべて科学文献で公表される可能性があることや、即座に応用されるとは想定されていないことを踏まえ、進めるのが適当と判断した」。CSAILの広報担当者は、ロイターにメールで回答した。
MITのランドール・デイビス教授は、自身のAI分析を使った認知機能低下を診断するヘルスケア関連研究について、アイフライテックが妨害することはなかったと語る。
「顔の表情で、話している内容や本当に欲しがっているものを理解できるようなシステムを求めている」と、デービス教授。アイフライテック側から研究室への人員派遣はなく、研究成果に対して独占的なアクセスを与えていないと説明する。
<声紋システム>
中国科学技術省は2017年11月、1999年創業のアイフライテックを、声紋関連のAI研究における国のトップ企業に位置付けた。
国有通信会社の中国移動<0941.HK>がアイフライテック株式の12・85%を保有する筆頭株主であることが、4月に公表された2018年の年次報告書から分かる。
アイフライテック子会社がカシュガル当局に声紋収集システム機材を納品する前述の契約について、ロイターはアイフライテックや新疆ウイグル自治区当局に取材したが、契約が実行に移されたかは確認できなかった。
また、別の子会社が同自治区の刑務所運営機関と結んだ、人間の言語や法的書類を翻訳するシステムの協力についての戦略的契約は、2017年5月に結ばれている。
自治区当局に連絡を取ったが、契約について回答は得られなかった。
政府の調達データベースには、アイフライテック子会社もしくはその前身企業が登場する契約が他に31件あり、2014─18年にかけて、中国の25の警察当局と中国公安部に声紋関連の製品やサービスを提供している。ほとんどの契約が、アイフライテックが本社を置く安徽省の警察当局とのものだった。
25の警察当局のうち8当局と公安部が、過去にアイフライテックの声紋技術を使ったり、現在も使っていることを確認した。
安徽省績渓県の警察当局者ガオ・カン氏は、アイフライテックの声紋収集機材を2015年に購入し、現在も使っていると認めた。また、「犯罪容疑者や法を破った疑いがある人物がわれわれの事件取り扱い部署に来れば、必ず声紋を収集している」と電話で語った。
人権団体ヒューマンライツウォッチのマヤ・ワン研究員は、2018年5月に同自治区住民に行った聞き取り調査で、警察署に連行され、録音機材とみられる機械の前で新聞を読んだり、歌を歌ったり、物語を朗読するよう求められたとの証言があったと語る。
新疆ウイグル自治区では、100万人以上が収容所で拘束されていると人権活動家は主張。当局側は、生体的特徴や行動上の特徴を利用して本人認証を行うさまざまなバイオメトリクス技術を用いて住民を追跡している。
中国側は、イスラム過激派を取り締まるために正当化される行動だと主張。3月には同自治区のトップは収容所のことを「寄宿学校」だと表現した。
<適正な手続き>
MITへの寄付は、アイフライテックが近年行ってきた研究支援の一例であり、同社は北米の他大学などとも協力関係を結んでいる。
2015年10月には、トロントのヨーク大が、アイフライテックからニューラル計算と機械学習の研究室新設などのため150万ドル(約1億6200万円)の寄付を受けたと発表した。
同大の代表は、2015年のアイフライテックの寄付は既存の研究を支援するもので、研究結果は公表され、その内容は声紋認識技術とは関係がないとメールで説明した。
2017年4月には、ラトガーズ・ビジネススクールが、「ビジネスインテリジェンス」とデータマイニングを手掛けるビッグデータ研究所の新設に向けた5カ年計画に、アイフライテックから100万ドルの寄付を受けたと発表した。同大は、この計画が相互了解の上、2月に終了したと述べたが、理由は明らかにしなかった。
2018年の年次報告書で、アイフライテックはプリンストン大との「戦略的協力」に言及。サイト上で、この協力は計算数学や応用数学に関するものだとしていたが、12日時点でこのページは閲覧できなくなっている。
同大広報担当者は、アイフライテックが「所属する研究者1人の基礎研究を支援するための寄付」を行ったことを認めたが、戦略的な協力合意はないと述べた。また、研究員は契約締結前に、定められたデューディリジェンスの手続きに従うことを義務付けられていると付け加えた。
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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