アングル:EV充電に救世主か、「夜間・低速」システムに期待

Vera Eckert
[シュツットガルト(ドイツ) 27日 ロイター] - 世界の自動車メーカーが電気自動車(EV)向けの新たな高速充電ネットワーク構築を求める中、欧州では一部の電力会社・電力グリッド運営企業が、より低速な充電システムの実現に向け走り出している。
<電力供給が破綻する懸念>
ディーゼル車やガソリン車は世界各国で販売が段階的に禁止されていく流れにあり、それらに代わって、将来は何百万台ものEVが路上を走り回る見通しだ。増大する電力需要にどう対応するか、電力会社には頭の痛い問題で、特に原子力・石炭火力から風力・太陽光といった供給量を予測しにくいエネルギー源に移行しつつあるドイツでは、課題は大きい。
ドイツで最近行われた調査では、消費者は低速な充電システムに協力的で、それが普及すれば、需要急増による電圧低下やコストのかかる設備更新を回避しやすくなるかもしれない、という結論が出た。
この調査は、「需要ピーク時に電力網が破綻しかねない」という一部の電力グリッド運営企業の懸念を多少、和らげる結果にもなった。
この実地調査を支えた地元の電力グリッド運営企業ネッツェBWのエンジニアらよると、参加したすべての世帯が自分のEVを夜間に充電するようになり、一方で同時に充電する世帯は半数にすぎなかった。
とはいえ、EV用バッテリーの持続限度が今のままでは、利点のある夜間充電が実現したとしても、ドライバーたちにガソリン/ディーゼル車からの乗り換えを促す魅力にはならないだろう。
高速充電ステーションのネットワークがなければ、ドライバーたちがEVによる長距離移動に二の足を踏むとしても不思議はない。だからこそ一部の自動車メーカーはEV普及のため、多数の高速充電ステーションを設置するよう求めているのだ。
<先行するノルウェーの実験>
ノルウェーは欧州を代表するEV市場であり、新車販売台数の50%近くが「ゼロ・エミッション(排ガスゼロ)」車である。ここでは、低速・遅延型の充電方式がすでに広がっている。
エネルギー監督当局であるノルウェー水資源エネルギー庁(NVE)が行った研究によれば、ピークとなる午後の時間帯を外して充電するようEV所有者に協力してもらわない限り、今後20年間に、低圧・高圧電力グリッド、充電ステーション、高圧変圧器のコストとして110億クローネ(12億ドル)を費やす必要があるという。
EVが夕方に充電されるようになれば、人口530万人のノルウェーが負担するコストは40億クローネをわずかに超す程度に収まり、夜間のみに充電されるようになればゼロに近づく可能性があると同庁はみる。現在、同庁はピーク時の充電にペナルティを科すような料金改定案にも取り組んでいる。
ノルウェーの電力会社ティバーは、充電時期の判断を自社に任せることを条件にEV充電の料金を割引するサービスを提供しており、またZAPTECのように、電力グリッドの供給余力に合わせて充電負荷を調整する手段を提供する企業もある。
<電力会社と自動車メーカーの意思疎通が必要>
ドイツでの調査でプロジェクトマネジャーを務めたネッツェBWのエンジニア、ゼルマ・ロッソー氏は、大規模なシステムを効率的に機能させるには、EV、電力グリッド、消費者のあいだの双方向コミュニケーションを改善していく必要があるだろうと話す。
「リアルタイムに負荷状況を更新していくためには、EVとグリッドの間でもっと情報を交換する必要がある。さもなければ、負荷のスピードについて誤った印象が生まれてしまう」と同氏は言う。
だが、いわゆる「ビークル・トゥ・グリッド(車両・電力グリッド接続)」(V2G)サービスを開発している電力事業者は、バッテリー・電力グリッド間での双方向の情報・電力のやり取りを可能にするテクノロジーを採用するよう一部の自動車メーカーを説得するのに苦労している。
たとえばフォルクスワーゲン、ダイムラー、フォード・モーターといったメーカーは、EVに対する消費者の抵抗感を払拭するために、むしろ単一方向の高速充電を優先課題としている。
自動車メーカーのなかでV2Gサービスの採用に最も前向きなのは日産自動車<7201.T>だが、独BMWもついにV2Gの開発に踏み切った。BMWは「eモビリティ」をマスマーケットに適応させるには、車両とグリッドの協力が鍵になると述べている。
(翻訳:エァクレーレン)

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