コラム:ゴーン被告の報酬虚偽記載、日米企業文化の違い露わに

コラム:ゴーン被告の報酬虚偽記載、日米企業文化の違い露わに
9月24日、日産自動車と同社前会長カルロス・ゴーン被告はこのほどゴーン被告の報酬の虚偽記載を巡り、米証券取引委員会(SEC)と和解金の支払いなどで合意した。写真は4月、東京拘置所を後にするゴーン被告(2019年 ロイター/Issei Kato)
John Foley
[ニューヨーク 24日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 日産自動車<7201.T>と同社前会長カルロス・ゴーン被告はこのほどゴーン被告の報酬の虚偽記載を巡り、米証券取引委員会(SEC)と和解金の支払いなどで合意した。SECが23日に公表した合意内容は、企業経営や投資に関する日米間の文化の違いについて考える有益な材料を提供している。
SECの発表は、ゴーン被告が世間の批判を避けるため、9年余りにわたって報酬の半分を隠していた状況を示している。それを可能にしたのは経営トップに過剰な権限を持たせた日本の企業文化だ。米国は事情が違うが、両国それぞれに欠点がある。
SECによると、ゴーン被告は日本で2010年に高額報酬を得た役員への情報開示規則が強化されてから、報告する報酬額をごまかそうとするようになった。ゴーン被告は「監視を受けずに」自ら報酬を設定し、部下と共謀して報酬開示を回避し続けた。
ゴーン被告は100万ドルの民事制裁金の支払いでSECと合意したが不正は認めておらず、日本での刑事訴訟については争う方針だ。
日産ほどの規模を持つ米国企業では、最高経営責任者(CEO)が自分の報酬についてこれほどの裁量権を持つということは想像しにくい。しかし、同様に、高額報酬を隠す動機も米国では存在しない。
SECによると、ゴーン被告は日産の最終年の報酬総額が2200万ドルだったが、米企業の場合、これよりもずっと多い報酬であっても株主が難癖をつけることはほとんどない。ウィリス・タワーズ・ワトソンのデータによると、米企業のCEOの平均報酬額は日本のトップの9倍。直近の年次株主総会シーズンの株主投票で経営トップの報酬に関する議決案が否決されたのは全体の3%にすぎず、この比率は昨年と変わっていない。
SECによると、ゴーン被告は5000万ドルの退職手当も支払われることになっており、報酬は非常に高額だった。しかし、それでも米企業トップの報酬はこの水準を上回ってしまう。6月にSECに提出された報告によると、米石油大手アナダルコ・ペトロリアムのアル・ウォーカーCEOは同業オキシデンタル・ペトロリアムへの身売りに伴い、1億ドル近い支払いを受ける資格を得た。
このように企業買収に伴って解任される役員に割増退職金を支払う「ゴールデンパラシュート」の仕組みは、平均で議決権を持つ株主の76%から支持を得ている。
投資家としては、経営幹部の報酬について米国式の考え方の方が楽だと言ってよいだろう。少なくとも、経営トップが巨額の報酬を隠す理由はあまりないからだ。それはそれで、別種の検証が必要な状況ではあるが。
●背景となるニュース
*日産自動車と同社前会長のカルロス・ゴーン被告は、ゴーン被告の報酬に関する不正な会計開示を巡り米証券取引委員会(SEC)との和解に合意した。SECが23日明らかにした。
*日産は1500万ドルを支払う。ゴーン被告は100万ドルの民事制裁金を支払い、今後10年間は米公開企業の取締役などに就くことが禁止される。
*SECによると、ゴーン被告は報酬総額が公になると日本やフランスのメディアから批判を浴びると懸念。日産はゴーン被告に支払われる予定だった退職金1億4000万ドル超の会計開示を怠った。
*日産はSECとの和解を認め、「コーポレートガバナンスのさらなる強化にしっかりと専念する」とコメントした。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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