焦点:香港警察の士気低下、不人気な政府と怒る市民の板ばさみ

Greg Torode Anne Marie Roantree
[香港 17日 ロイター] - 政府に対する市民のデモが激化する中、優秀なことで知られる香港の警察が、自信の喪失、リーダーシップの欠如という危機に直面している。
ロイターが取材した現役の警官、退職した元警官、政治家、セキュリティ問題の専門家は、香港警察が場当たり的な意志決定、現場の士気低下や怒りなどの問題に悩んでいると警告する。前線の警官は、人気がない香港行政府に対する市民らの怒りを目の当たりにしている。
「現場レベルは当惑し、混乱している」──。今もかつての同僚と交流がある元警察官はこう話す。「大事なときにリーダーシップが欠如しているのは明らかで、政府からの十分な支援がないと感じている。それが指揮官レベルに影響を与えている」
ロイターは香港警察に確認を求めたが、警官の士気低下などについて直接的な回答はなく、「暴力的な抗議行動により、法の支配が深刻に損なわれている」、「香港の法律を守る使命を負う警察は、公共の安全と秩序を維持するため、断固として最前線に立つ」とした。
抗議活動の現場で「政府の顔」となる警察は、市民の怒りのターゲットになりやすい。しかし、デモの参加者によれば、警察はこれまでも過剰な暴力を振るい、高圧的な監視手法を駆使しているという。
英国は1997年、抗議する権利を含めた幅広い自由と自治の維持が保障されることを条件に、世界の一大金融ハブである香港を中国に返還した。
香港では犯罪容疑者を中国本土に引き渡すことを認める条例案をきっかけに、先月発生した大規模な抗議行動は、ほぼ毎日行われるデモへと発展している。
香港行政府は条例案をもはや「死んだ」としているが、活動家たちは正式に廃案するよう要求を続け、警察の行動に対する第三者による調査、民主改革、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官の辞任を求めている。
<「不人気なイヌ」とウィキに書き込み>
先週末、2カ所で平和的に行われた抗議行動が、警棒を振るう機動隊員と活動家が衝突する事態に発展した。このうち1つは、日曜日の買い物客で賑わう郊外のショッピングモールで発生した。
6月に香港中心部で起きた大規模な衝突では、警察が催涙ガス、ゴム弾、ビーンバッグ弾を使って活動家を撃退した。その数日後、数千人の群衆が警察本部を包囲し、幹部や若手職員が数時間にわたって閉じ込められた。
現役のある警察幹部は、政治的な対立に解決が見えない現実の中で、香港の警察官およそ3万人の間で不安感がさらに高まっていると話す。「私たちは未知の領域に入っている」、「どこに向かっているのかは誰も知らない」と語る。
警察官およそ2万人が加入する警察労働組合は今週、部隊の指揮官に書簡を送り、警察官の安全と精神衛生が守られるよう、改めて保証を求めた。「戦術及び装備を含めた状況について、上層部が確信を持てない場合」は危険な状況下に派遣すべきではないとしている。
複数の警察官は、傘やヘルメット、通りのベンチなどを使って戦う態勢を強めている一部の中心的な活動家は別として、小規模で平和的な集会でさえ激しい罵声が浴びせられることにショックを受けたと話す。
ロイターの記者も先ごろ、通りを行き交う市民が警察官の一団に罵声や怒号を浴びせる様子を目撃した。写真を撮影していた私服警察官を追い払う光景もみられた。オンライン辞典のウィキペディアでは「香港警察」のページがハッキングされたとみられ、「人気がないイヌ」という単語が書き込まれた。
社会の安全と秩序が国際的に高く評価され、他国の治安当局との緊密な協力関係を含め、長年にわたって「アジアで最も優秀」な警察であることを誇っていたことを思えば、急激な変化と言える。
1960年代の左派による暴動、1970年代の組織的な腐敗に悩まされた時期を経て、香港警察のトップは訓練内容を改善し、プロとしての名誉を高めることに心血を注いできた。
<中国の武装警察が出動か>
野党・民主党のベテラン議員ジェームス・トー氏は、警察と市民の対立激化を深く憂慮していると話す。トー氏は、行政府の無能さの責任を「肩代わり」させられていることに、多くの警察官が怒りを感じている指摘。警察に対する市民の怒りが、かつて見られなかったレベルに達していることを危惧していると語る。
「非常に憂慮すべき事態だ。行政府が政治的に解決できなければ、警察に対して明確な指針を与えるべきだろう」と、トー氏は言う。
英国植民地時代に香港警察の幹部を務め、現在はリスクコンサルタントのスティーブ・ビッカース氏は、警察の士気の維持と改善が非常に重要だと指摘する。「もっと強硬な行動が必要となった場合に、『(現政権に)裏切られることはない』という確信を持つためだ」と、同氏は言う。
ビッカース氏は、警棒を振るうよりも安全に暴力的なグループを排除できるよう、政府は警察の催涙ガス使用基準を緩和すべきだと言う。「警棒を使ったり、身体的な接触を伴う衝突では、必ず重傷者が出る」
海外のセキュリティ問題専門家の間には、対立の激化が続き、香港警察が秩序の維持に苦慮するようになれば、中国政府が本土の人民武装警察部隊を派遣する可能性があると指摘する声がある。香港行政府、中国政府とも、香港に駐留する中国人民解放軍を出動させる意志はないが、暫定措置として人民武装警察の展開は考えられると、彼らは言う。
人民武装警察は、中央軍事委員会直轄の暴動鎮圧専門部隊で、中国メディアによれば、香港と境界を接する深センを拠点とする部隊があるという。
ロイターは中国国防省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
民主党のトー議員は、人民武装警察の派遣は現段階では過剰反応であり、香港警察にとっても市民にとっても受け入れがたいと語る。
(翻訳:エァクレーレン)
*誤表記を修正しました。

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