アングル:イタリア再び政治危機、連立と選挙の想定シナリオは

アングル:イタリア再び政治危機、連立と選挙の想定シナリオは
8月21日、イタリアのコンテ首相は、サルビーニ副首相兼内相が国益よりも自身が率いる極右政党「同盟」の党利党略を優先していると批判し辞表を提出した。写真はローマで政治危機を伝える新聞を読む女性(2019年 ロイター/Yara Nardi)
[ローマ 21日 ロイター] - イタリアのコンテ首相は、サルビーニ副首相兼内相が国益よりも自身が率いる極右政党「同盟」の党利党略を優先していると批判し、20日に辞表を提出した。
これによって生まれた政治危機をいかに収拾するかは、マッタレッラ大統領の手に委ねられる。以下は現在の状況と今後想定されるいくつかのシナリオだ。
◎政権は崩壊したか
完全に崩壊したわけではない。マッタレッラ氏はコンテ氏に対して、事態が決着するまで暫定的に政権を運営するよう命じた。この間、コンテ氏は、イタリアが選出する新しい欧州委員を指名するかもしれない。
サルビーニ氏は20日、同盟の閣僚を引き揚げていないと述べ、減税を盛り込んだ来年の予算を成立させるために政権を維持する構えだと付け加えた。ただ憲法の専門家によると、予算承認は暫定政権の権限外なので、サルビーニ氏の思惑が現実化する公算は乏しい。
コンテ氏がサルビーニ氏を議会で批判したことから、現在の連立政権は恐らく瓦解したのだろう。しかし理論上は、マッタレッラ氏がコンテ氏を再び議会に送り、同盟との関係修復を図ろうとする可能性は残っている。
◎イタリアは早期選挙に向かうか
議会解散権を持つマッタレッラ氏は、新たな連立政権の樹立が不可能だと考えた場合のみ、約3年半前倒しする形で総選挙を公示するだろう。もちろん決定前には、上下両院の議長や主要政党の首脳と協議するとみられる。昨年実施された総選挙後には、連立政権の発足まで延々と協議が続けられた。マッタレッラ氏は、今回はそうした話し合いが長引くのを認めないとの姿勢を明確にしている。
◎次の連立政権はどのような形になるか
最も現実味がありそうなのは、現在同盟と連立を組む新興政治勢力の「五つ星運動」が、中道左派の野党である民主党(PD)を相手に選ぶことだ。両党は既に暫定的な協議を開始、PDはジンガレッティ党首に新政権樹立に取り組む権限を付与すると予想される。
五つ星運動とPDが連立に合意しても、上院では合計しても半数を1議席しか上回れず、中小勢力や終身議員の支援が必要になる。小規模な左派政党の自由と平等(LEU)は、既に協力の意向を示している。
もっとも、両党が手を結ぶための道のりは険しいだろう。これまでずっといがみ合ってきたし、政策面でも多くの違いがあるからだ。さらにジンガレッティ氏の党内における指導力は、なお多くの議員を影響下に置くレンツィ元首相にとって弱められており、こうした状況が5つ星運動との協議をより難しくする恐れがある。
五つ星運動とPDの交渉が不調に終わった場合、マッタレッラ氏は実務者内閣を議会の幅広い勢力が支えることを求め、来年予算を成立させた上で、来年春に選挙を実施しようとしてもおかしくない。
◎コンテ氏が新政権を率いる可能性は
もちろんある。法律家で政治的な色のないコンテ氏は、現在の連立政権内では理性の代弁者とみられてきたし、マッタレッラ氏との関係も良好だ。特に議会がコンテ氏の不信任案を可決しなかっただけに、同氏には再登板のチャンスがある。とはいえ、同氏は五つ星運動に近い人物と考えられており、PDが同氏の人気上昇を恐れて復帰を拒否するかもしれない。
◎次の選挙はいつ行われるか
それは、どの程度の時間をかけて全ての選択肢を模索しようとするかに左右される。マッタレッラ氏は21日、来年の予算を成立させるために秋の段階では政府が存在していてほしいとの考えを明示している。つまり選挙は10月末までには終わっているか、来年以降になるはずだ。
イタリアは第2次世界大戦以降、秋に選挙が実施されたケースはない。
◎新たな選挙の結果はどうなるか
五つ星運動が第1党になった昨年の総選挙以降、各種世論調査によると同盟の支持率は2倍になっている。現在は34─39%あり、次の第1党の座を手にするのは容易だろう。ただ同盟が絶対的な過半数を確保できなければ、サルビーニ氏は連立政権に向けて、ベルルスコーニ元首相が率いる「フォルツァ・イタリア」と、「イタリアの同胞」という2つの中道右派政党に声を掛ける可能性がある。

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