アングル:安倍政権、歴代最長も果たせぬミッション 憲法改正の夢

アングル:安倍政権、歴代最長も果たせぬミッション 憲法改正の夢
 安倍晋三首相(写真)は政権に返り咲いた7年前、高まる中国の脅威に対して防衛力強化を約束するとともに、憲法改正を目指した。写真は自衛隊の観閲式。2018年10月14日、東京の朝霞駐屯地で撮影(2019年 ロイターS/Kim Kyung-Hoon)
Linda Sieg
[東京 13日 ロイター] - 安倍晋三首相は政権に返り咲いた7年前、高まる中国の脅威に対して防衛力強化を約束するとともに、憲法改正を目指した。首相としての任期が日本憲政史上で最長になる日が近づく中、安倍氏は最初の約束は既に果たしたものの、後者は実現の見通しが立たないままでいる。
つまり、日本は米国の同盟国として本格的に動くことになお制約を抱えている。トランプ米大統領は日本との同盟を「不公平」と呼び、日米安全保障条約の変更までちらつかせる。折しもアジアでは中国が軍備を増強し、北朝鮮が核・ミサイル開発を進めている。
安倍政権下で、それまで減少していた日本の軍事費は10%拡大した。2014年には歴史的な憲法解釈の変更を行い、第2次世界大戦以来、初めて自衛隊が海外で戦えるようになった。
しかし、安倍氏は憲法9条を改正し、自らのレガシー(政治的業績)を仕上げることまではできないでいる。遠い国で自衛隊が戦闘に加わることへの警戒感と、米国主導の戦争に巻き込まれることへの恐れが、国民の間で根強いためだ。
自民党の船田衆議院議員は「やはり日本人にとって9条はある意味でバイブル(聖書)でもある。大変重い足かせでもある」と話す。
保守派は米国が起草した日本国憲法を屈辱的な敗戦の象徴と見る一方、他の人たちは日本が外国の紛争に関与しないためのブレーキとみなす。
NHKが先ごろ公表した世論調査によると、有権者は安倍首相の安全保障・外交政策を高く評価しているが、朝日新聞が実施した調査では、64%が9条改正に反対し、改憲を支持したのは28%にとどまった。
<世論の反対>
日本政府が昨年発表した新たな中期防衛力整備計画は、2019年─23年の防衛費総額を25兆5000億円とし、その前の5年間から6.4%増やした。憲法解釈の変更から1年後、国会は限定的な集団的自衛権の行使を可能にする法律を施行した。
これらの措置により、9条による制約はさらに緩くなった。9条は文字通り読めば戦力の放棄を定めているが、過去の政権は解釈によって自衛隊を認めた。
「戦後の制約はほとんど残っていない」と、米マサチューセッツ工科大国際研究センター所長、リチャード・サミュエルズ氏は言う。「安倍政権下で流れは加速し、さらに9条から距離を取った」
それでも安倍首相は、世論や連立を組む公明党から影響を受け、妥協を強いられている。
カリフォルニア大学サンディエゴ校のエリス・クラウス名誉教授は「安倍氏は理論上、日本が集団的自衛権を行使し、米国の戦闘を支援する土台を作った。しかし、日本が近い将来、実際にそうした行動を起こすとは思わない」と語る。
<個人的ミッション>
日本政府は10月、イラン情勢の悪化で緊張が高まる中東の海域に海上自衛隊を派遣できないか検討に入った。米国が提唱する有志連合に参加しない独自派遣の形で、法律で許される「調査・研究」目的だ。それもリベラル層の反発を引き起こした。
安倍氏にとって、改憲は祖父の岸信介元首相が果たせなかった課題であり、その実現は個人的なミッションでもある。
「日本はもはや第2次大戦の敗北に縛られない別の国になった」という見解が根底にあると、サミュエルズ氏は解説する。
慶応大法学部の添谷芳秀教授(国際政治学)は「安倍氏の根本的な哲学はナショナリズムであり、9条を変えない限り(米国の)占領体制から脱却できないというものだ。彼は決してあきらめないだろう」と言う。

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