アングル:日韓対立、経常黒字下押しの一因に 日銀も経済への影響注視

アングル:日韓対立、経常黒字下押しの一因に 日銀も経済への影響注視
 9月9日、日韓関係の悪化が、日本の経常黒字の下押し要因として浮上してきた。半導体材料の輸出管理強化など、両国の関係悪化を受け、韓国と日本を結ぶ定期便の運休が続出。韓国からの観光客が減り、経常収支の構成項目の1つである旅行収支に下押し圧力が掛かっている。写真は都内で2015年6月撮影(2019年 ロイター/Toru Hanai)
和田崇彦
[東京 9日 ロイター] - 日韓関係の悪化が、日本の経常黒字の下押し要因として浮上してきた。半導体材料の輸出管理強化など、両国の関係悪化を受け、韓国と日本を結ぶ定期便の運休が続出。韓国からの観光客が減り、経常収支の構成項目の1つである旅行収支に下押し圧力が掛かっている。韓国の旅行者を多く受け入れてきた九州地方では、観光客の多様化や消費増に向けた議論が本格化。日銀は、日韓対立が実体経済に与える影響を注意深く見ていく方針だ。
<9月にかけて経常黒字は縮小傾向>
財務省が9日に発表した7月国際収支統計速報値で、経常収支は1兆9999億円の黒字となり、前月の1兆2112億円から拡大した。しかし、季節調整後の経常収支は1兆6470億円となり、前月の1兆9419億円から黒字額が縮小した。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、季節調整値ベースの経常収支は9月にかけて黒字額が縮小しやすいと予想する。「消費税引き上げ前の駆け込み需要で輸入が増加する一方、米中貿易摩擦で輸出が減少し、経常収支の黒字額は縮小が予想される」という。輸入品には品目に限らず、消費税が課税される。
<日韓対立の影>
これに加え、経常黒字の圧迫要因の1つとなりそうなのが、日韓対立の長期化だ。
日本政府による韓国向け半導体材料の輸出管理強化などで対立が深まった7月。日本政府観光局によると、韓国からの訪日旅行客は前月比8.2%減の56万1000人(推計値)となった。韓国からの旅行客は全体の2割程度の比率を占める。
7月の経常収支への影響は軽微だったが、SMBC日興証券によると旅行サービス収支の季節調整値は1900億円の黒字で、6月の2200億円から黒字額が縮小。韓国からの訪日客減少もあり、宿泊費や飲食費の「受取」が減った。一方で日本人の海外旅行者の「支払」も減ったため、縮小は小幅にとどまった。
<九州経済を直撃>
日韓対立の経済面での影響は、九州地方を中心に顕在化している。観光庁発表の国籍別延べ外国人宿泊者数では、九州7県のうち鹿児島県を除く6県で韓国がトップとなっており、関係悪化の影響を受けやすい。
韓国の格安航空会社、ティーウェイ航空は8月19日から佐賀―プサン線と佐賀―ソウル線を運休。佐賀―プサン線の運休は当初9月17日からだったが、日韓関係の想定以上の悪化で運休開始を1カ月前倒しした。佐賀県空港課は、航空会社と緊密に連絡は取っているものの、再開の見通しは立っていないとしている。
佐賀県は外国人宿泊客の52%を韓国が占め、韓国の人々にとって「近くて手軽に行ける外国」(佐賀県関係者)として存在感を発揮していただけに、定期便の運休は痛手だ。佐賀県の観光課は、観光客の国籍の多様化と消費額の増加が必要だと指摘。10日からの県議会で対策を議論する。
<対立の長期化に伴うリスク>
こうした動きには日銀も注意を払っている。鈴木人司審議委員は8月の熊本市での記者会見で、日韓関係悪化の影響について「熊本県に限らず、今までインバウンドで韓国からの旅行者の方が多く来ていたところが、目に見えて減少している」と指摘。「こうしたことが長引けば、その影響が具体的に無視できない数字で表れてくる可能性はあるだろう」と述べた。
会見に同席した日銀・熊本支店の中村武史支店長も、実体経済への影響を「注意してよく確認していきたい」と話している。

編集:石田仁志

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