コラム:ブレグジット英国民投票のやり直し、なぜ愚策か

コラム:ブレグジット英国民投票のやり直し、なぜ愚策か
12月7日、英国のEU離脱(ブレグジット)が決まった2016年6月の国民投票のやり直しを願って、再度の国民投票を求める「残留派」の訴えほど、「願い事をするときは慎重に」という警句があてはまる事柄はないだろう。ロンドンで6日、デモに参加するEU離脱支持者(2018年 ロイター/ Toby Melville)
John Lloyd
[7日 ロイター] - 英国のEU離脱(ブレグジット)が決まった2016年6月の国民投票のやり直しを願って、再度の国民投票を求める「残留派」の訴えほど、「願い事をするときは慎重に」という警句があてはまる事柄はないだろう。
もし国民投票が再び実施されれば、右派、そしてもしかしたら左派の両極で怒れる巨大なポピュリスト政党誕生という、英国がこれまで回避できていた現象への近道となりかねない。
そうなれば、英国や英国政治、欧州、そして民主主義の大義全般にとって、非常に悪いニュースになる。「彼ら」が「われわれ人民」による民主的な投票をつぶした、と受け止められるだろうし、それには一定の正当性がある。
再度の国民投票を正当化する理屈は、メイ英政権の閣僚が先月どうにか承認して議会採決が11日行われるEU離脱案か、ブレグジットの全面的撤回か、どちらかを選択する権利は国民にある、というものだ。
単なる「EUに対する不満の表明」だった2016年の国民投票と異なり、有権者が今回は十分な情報を得た上で選択するだろう、とEU残留派は主張している。
だがむろん、再投票の推進派は、ブレグジットに向けた流れが逆転することを願っている。彼らは有権者が、「合意なき離脱」が与える成長鈍化や経済ショックの可能性におびえていると考えている。こうしたリスクは、イングランド銀行(英中銀)のカーニー総裁が11月末に警告したもので、政府の公式分析もそれを裏付けている。
英国のような島国であっても、本当に「島」である国は存在しない。一時は高い支持率を誇った中道のマクロン大統領とその政党「共和国前進」に対し、左派と右派が結託してフランスで発生している、時に暴力的な衝突の盛り上がりは、「われわれ」と「彼ら」の対立のもっとも鮮明で恐ろしい例だ。
欧州全域でも不満は深く広がっており、ベルギーのルテルム元首相が6月に指摘したように、ポピュリストが「既存政治のルール拒否」で団結している。
フランスでは、燃料税引き上げに反対して主に地方で始まった通常の抗議デモが、今では革命のようなものに変化している。フィリップ仏首相は4日に引き上げを6カ月延期すると発表したが、さらなる反発を招いた。仏政府は5日夜、2019年予算案から燃料税増税を削除し、再度の導入について言及しないことで、完全降伏した。
欧州で最も強力で自信があるようにみえた政権が、そしてほんの数週間前に抗議デモに屈した前任者の轍を踏まないという賢明な判断を示した大統領が、このような対応を示したことは、欧州政府にとって、さらには世界の民主国家にとって、最悪の警告となる。
フランスは、ある年に民主的に行われた政権選択が、翌年には暴力的な抗議活動の怒りによって脅かされる、ということを示したようにみえる。こうした傾向が顕著になれば、民主主義の弔いの鐘が鳴ることになるだろう。
このような傾向が顕在化する可能性は、どの程度だろうか。政治の風向計は、さまざまな方角を示している。
極右の台頭が20世紀の負の記憶を呼び覚ますドイツでは、極右政党「ドイツのための選択肢」の支持率が夏の世論調査で17%まで増えたが、その後行われたバイエルン州やヘッセン州の議会選では左派の緑の党が躍進し、「選択肢」の得票率は約12%にとどまった。
イタリアではポピュリスト連立政権の支持率が依然として高い。国内で最も有名な政治家で反移民の立場を明確にしているサルビーニ副首相が、銃所持を自由化する法案を提案し、米国のような銃擁護のロビイストの台頭を懸念する声が出ている。中道左派の前政権がEUと合意した予算案の順守を現政権は拒否しており、EUと難しい折衝が続いている。両者とも後退できないが、妥協によって一時的な面目は保てるかもしれない。
右派ポピュリズムに免疫があると考えられていたスペインでは、新たな勢力が拡大している。新興の極右政党ボックスが、今月行われたアンダルシア自治州議会選で突如12議席を獲得し、州政府入りする可能性が出ている。同党は、移民の流入管理や、中央政府の権限強化、スペインによる文明貢献の啓蒙など、州よりも国レベルの政策を訴えている。
アンダルシアの有権者が、地方から中央への権限再委譲を訴える政党を熱心に支持したことは、分離独立を主張するカタルーニャ自治州とマドリードの中央政府の対立を生んだ、同国の先進的な地方自治制度に対する不満が高まっていることを示している。カタルーニャのような騒動は、「スペイン全体を不安定化させる極めて高い可能性をはらんでいる」と、地元コメンテーターJuan José López Burniol氏は指摘する。
同氏の指摘は、欧州全体にあてはまる。
2019年5月の欧州議会選挙で勢力拡大を狙うポピュリスト勢力は、これまでの選挙では勝利していないが、それでも極めて大きな不安定要因になっている。
スウェーデン議会では、過半数を制した政党不在の中で、主要政党が極右スウェーデン民主党との連立を拒み、政権が樹立できずにいる。オーストリアでは、移民抑制を政策の柱とする右派連立政権に極右の自由党(FPO)が参加。国営放送や、極右支持者の人種差別的行動に対する捜査に圧力をかけようとした疑惑、さらに飲食店での喫煙禁止法案を政府が撤回したことなどで、リベラル派の怒りを買っている。
主要政党の政策運営に反発する多数の市民の存在を否定できる国はどこにもない。
米国と同様に、移民政策から環境、ジェンダー、メディア、家族や福祉に至る、あらゆるリベラルな政策に反発するポピュリストには、強力な支持が安定して集まる。リベラルや中道派が数十年にわたって権力を独占し、民衆を裏切ったとの巨大で深い感情が、そうした支持を強固なものにしている。
政治学者マーク・リラ氏がニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス誌で指摘したように、「(欧州の右派勢力の間で)思想が生まれ、国境を越えてそれを広めるネットワークが成立しつつある」。
ポピュリズムは、ただの暴力行為以上のものなのだ。
英国のリベラル派は、下院が政府のEU離脱協提案を否決すれば、国民投票をやり直し、離脱の撤回につながると期待しているのかもしれない。だが、そうなれば階級闘争が起きる。火のついたマッチを待つばかりの一触即発の状態だ。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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