コラム:トランプ氏の対イラン攻勢、原油市場が足かせに

コラム:トランプ氏の対イラン攻勢、原油市場が足かせに
 5月21日、トランプ米大統領が原油の値上がりに強い不満を示す一方、主要産油国のイランに経済制裁を科して輸出を阻止するなど矛盾する政策を進めた結果、油価は昨年大きく揺れ動いた。写真は20日、ペンシルベニア州で選挙活動を行うトランプ大統領(2019年 ロイター/Carlos Barria)
George Hay
[ロンドン 21日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領が原油の値上がりに強い不満を示す一方、主要産油国のイランに経済制裁を科して輸出を阻止するなど矛盾する政策を進めた結果、油価は昨年大きく揺れ動いた。最近はトランプ氏が軍事力の行使を再びちらつかせたため、原油は70ドル台に戻している。危険なのは、トランプ氏が対立激化に伴う油価上昇は抑え込めるという間違った考えの下に、対イラン関係の行き詰まりに誤った対応を取る可能性だ。
米国とイランは政府当局者による攻撃的な発言が増え、米国はペルシャ湾に空母を配備。12日にアラブ首長国連邦(UAE)の領海内で石油タンカーが攻撃を受けた事件も未解明だ。一方、サウジアラビアはイランの支援を受けるイエメンの武装組織「フーシ派」がサウジの石油施設を攻撃したと非難している。ただ原油価格は10日以降に2%上昇したとはいえ、4月末を下回る水準にとどまっている。
原油相場が比較的落ち着きを保っているのは、米国が本格的な対立にまで踏み込むことはないとトレーダーが高をくくっているのが一つの理由だ。北海ブレントは1カ月物の価格が7カ月物を上回る逆ざやとなっており、最近は期近物のプレミアムが2014年以来の高水準となった。これは目先の供給減少を示す信頼に足るサインだ。米商品先物取引委員会(CFTC)とインターコンチネンタル取引所のデータでも、資金運用担当者は北海ブレントのポジションを7億バレルの買い持ちにしている。
基礎的な諸条件もこうしたポジションの傾きを裏付けている。今年は汚染問題でロシア産原油の供給が落ち込み、ベネズエラとイランで供給が途絶。トランプ大統領の対イラン制裁復活でイランの原油輸出は日量250万バレルから100万バレルに落ち込んだ。米国はイランの輸出を完全に止めたいと考えている。
しかし紛争が勃発すればホルムズ海峡の船舶航行に支障が生じる。原油は世界の消費量の5分の1相当がホルムズ海峡を経由しており、海峡が通行できなくなれば原油価格は急騰するだろう。
トランプ氏は強硬な政策を進める余地があると感じているのかもしれない。原油の供給が引き締まっているのは、サウジが石油輸出国機構(OPEC)など産油国との減産合意の結果、日量200万バレル余りの生産余力を残しているというのが理由の1つだ。
トランプ氏はサウジに増産を迫る上で、通常以上に強い立場を得ている。反体制派ジャーナリストのジャマル・カショギ氏が昨年殺害された事件で、サウジのムハンマド皇太子は無実だと公言して恩を売ったからだ。またキャピタル・エコノミクスによると、中東湾岸諸国の大半はイランとの通商関係が極めて薄い。さらに通商紛争で世界的に景気が鈍化すれば原油価格の上昇は抑えられるし、米国自体も原油の生産量が急激に増えている。
しかしイラン情勢に絡む原油価格急騰に対するトランプ氏の備えは、完璧からはほど遠い。サウジは増産によって他のOPEC加盟国を苛立たせるのをためらうかもしれない。また現実的な制約から、サウジの目先の生産余力は日量100万バレル程度にすぎない。これはイラン産の輸出停止分を埋め合わせるには十分だが戦争による価格高騰を止めるには不十分だ。国際エネルギー機関(IEA)は米国のシェールオイルが2024年までの世界の供給の伸びの4分の3を占めると予想しているが、米国のシェールオイルは軽質油だ。米国の製油所の多くは主に中東湾岸やベネズエラで産出する重質油を精製している。そのため戦争が起きればトラックなどで使われるディーゼル油の価格が上昇するだろう。
トランプ氏は、イランの体制を無理やり転換することの方が重要だと心を決めたのかもしれない。しかしトランプ氏が原油価格を低く抑えることを今でも重視しているなら、軍事力を行使する余地はほとんどない。
●背景となるニュース
・トランプ大統領は20日、イランが中東での米国の国益に対して攻撃を仕掛ければ、イランは「大きな報い」を受けることになると警告した。
・ロイター通信が16日、3人の政府当局者の話として伝えたところによると、トランプ大統領は国家安全保障担当を含む側近らにイランとの戦争は求めていないと伝えた。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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