アングル:EU離脱にイランに中国、英国新首相に数々の難題

アングル:EU離脱にイランに中国、英国新首相に数々の難題
 7月22日、英国の次期首相となる保守党党首がまもなく決まる。新首相は就任と同時に内政と外交の両面で手に余るほどの課題に直面しそうだ。写真は党首候補のボリス・ジョンソン氏(左)とジェレミー・ハント氏。7月6日、ウェールズのカーディフで撮影(2019年 ロイター/Rebecca Naden)
[ロンドン 22日 ロイター] - 英国の次期首相は、就任と同時に内政と外交の両面で手に余るほどの課題に直面するだろう。欧州連合(EU)からの離脱を実現し、トランプ米政権との関係を修復するとともに、イランにどう対応するかを決め、議会で過半数に届かない与党・保守党を率いて政権を運営していかなければならない。
ジョンソン前外相とハント外相が候補として残った保守党党首選の決選投票は、23日に結果が発表される。勝者が24日には首相の座につくことになるが、選挙戦ではジョンソン氏が優勢を保ち続けている。
いずれが首相になろうと、以下の問題に早急に対処しなければならない。
<議会の信任を取り付けられるか>
EUからの離脱、つまりブレグジットという、ここ数十年で最も大きな論争を巻き起こした政策を実現するため、次期首相は議会の信任を獲得し、政権運営ができることを証明しなければならない。
しかし、最大野党の労働党が次期首相の不信任案を提出した場合、早ければ就任2日目には可決されてしまう可能性がある。
保守党は次期首相への信任を確保するだけの十分な議席を有しておらず、メイ政権下では北アイルランドの地域政党である民主統一党(DUP)の閣外協力を仰いできた。
そのDUPは次期首相を支持するかもしれないが、肝心の保守党内では、合意なきブレグジットに向かう事態になれば首相の不信任案に賛成する、と示唆する議員が一部いる。
議会からの信任という最初のハードルを越えられない場合、次期政権は崩壊して総選挙に進んでもおかしくない。
<ブレグジットの行方>
ジョンソン氏とハント氏はともに、メイ首相が昨年EUと合意し、議会が3回否決した離脱案を放棄した上で、新たな合意を結ぶ交渉をしたい意向だ。
一方でEUは、離脱案のうち法的拘束力を持ち、円滑な離脱のための移行期間を定めている「離脱協定」の再交渉には応じないと繰り返している。
次期首相にとっての問題は、この離脱協定に北アイルランドの国境管理厳格化を防ぐための「安全策(バックストップ)」という、強硬離脱派から最も強く批判されている項目が含まれていることにある。
EUの交渉担当者は、英次期首相との間でまとまりそうないくつかの合意案を検討しているものの、どれもジョンソン氏やハント氏が望む内容には達していない。両氏は安全策の撤廃を、EUは存続を望んでいる。
英国が新たな合意に向けた交渉をできない、もしくは次期首相がEUと協議して持ち帰った案を議会が拒否すれば、10月末に合意なきブレグジットが現実のものとなる。
<極秘公電で揺れる対米関係>
次期首相は、最大の貿易相手EUからの離脱に伴う悪影響を和らげる上で、最も緊密な同盟国かつ主要輸出市場である米国との良好な関係を何としても築かなければならない。
しかし両国関係は、英国の駐米大使が本国への極秘公電の中でトランプ大統領を「無能」と呼んでいたことなどが漏えいし、ぎくしゃくしている。
トランプ氏が激怒し、大使が辞任する事態になったことを受け、次期首相がどう対応するかが、重要な時期に対米関係がうまくいくかどうかを左右しそうだ。
両国はブレグジット後速やかに、包括的な形の自由貿易協定を締結したいと考えている。とはいえ、どれだけ迅速に達成できるかは政治的な意思次第だ。
<イランと中国の問題>
米国と欧州の同盟諸国は、イランの核開発を巡るアプローチで方向性に違いが出ており、英国はどちらにつくか難しい選択を迫られている。
イラン革命防衛隊は19日、ホルムズ海峡で英国船籍のタンカーを拿捕。これは2週間前に英国がイランのタンカーを拿捕した報復とみられる。
こうした中で次期首相が米国側に歩み寄り、EUのイラン政策とたもとを分かつのかどうかが注目されている。
次期首相は、第5世代通信(5G)ネットワークの国内整備に、中国の華為技術(ファーウェイ)をどう関与させるかも決めなければならない。トランプ政権は、安全保障上のリスクが高いとみなすファーウェイを英国が採用すれば、米英の諜報面での関係が損なわれかねないと警告している。
ファーウェイ問題をどう取り扱うかは、英国と中国の今後の関係を決める可能性がある。英国はEU域外の国々との関係強化を目指しており、中国はその最優先対象国の1つだ。
<ブレグジット後の国家像>
次期首相にとって最初の試練はもちろんブレグジットの実行だが、その後の英国の長期的なビジョンについて有権者や投資家、同盟諸国を納得させられる現実的な計画をまとめなければならない。
次期首相は結局、英国がどのような経済を築き、それを世界に積極的にアピールしながら、欧州と米国のどちらの規制に合わせていくか選ぶ必要が出てくるだろう。

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