コラム:アマゾンの周到な顧客データ収集、米議会が厳しい視線
Robert Cyran
[ニューヨーク 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - アマゾン・ドット・コムは米有料会員向けセール「プライムデー」の期間中、同社の買い物支援アプリ「アマゾンアシスタント」をインストールしてウェブ閲覧履歴を提供したユーザーに10ドルを提供するキャンペーンを展開中だ。競合他社からビジネスを奪う周到な手口で、しかもユーザーからデータを安く買い叩いており、市場での優位は明らかだ。折しも米下院の反トラスト小委員会は16日にオンライン市場の競争に関する公聴会を開き、アマゾンなど米IT大手の幹部が出席。アマゾンのユーザー情報の扱いは米議会の厳しい視線にさらされている。
小売業者が顧客の情報を得るために値引きするのは目新しいことではない。調査に協力してくれた顧客に企業がいくばくかの謝礼や参加賞を渡すのはよくある。アマゾンはアシスタントを新規インストールして50ドル以上の買い物をしたユーザーに10ドル相当のクレジットを提供している。
アマゾンが他と異なるのは情報収集のスケールで、同社の規模を考えれば反トラスト的な影響を及ぼす可能性がある。アシスタントは競合他社のウェブサイトから検索結果やコンテンツなどの情報を集め、処理する。アマゾンは消費者が競合他社のサイトを閲覧する際にアマゾンの提案やレビューを表示する。
アマゾンは電子商取引業界の雄であるが故に時価総額は1兆ドルに近い。グーグルの親会社アルファベットとフェイスブックも検索とソーシャルネットワークの分野を支配することで急速に企業価値が高まった。従来型の反トラスト理論ではこうしたビジネスが消費者に損害を与えていることを証明するのは難しい。アマゾンの利幅は極めて薄く、アルファベットとフェイスブックはほとんどのサービスに課金すらしていない。
こうしたIT大手がそれぞれの分野で市場を支配している理由の1つが膨大な量のデータ収集にある。例えばアマゾンは集めたデータを活用して商品に最良の価格を付け、低い価格設定によって値段に敏感な消費者を引き付けたり、価格にそれほど神経を尖らさない消費者には高めの価格を設定できる。また、自社レーベルの商品を投入し、顧客の要望に的確に応えることもできる。しかもこうした手法の生む価値は時間とともに膨れ上がる。例えばアマゾンは製品のレビューを蓄積することで自社サイトの有用性を高め、顧客をつなぎ留めている。
IT大手にとって消費者データの価値は高いが、消費者への支払いはわずかだ。アマゾンのケースでは、消費者は無料か二束三文でデータを渡そうとしている。たとえ消費者がデータ提供に対して報酬を求めたとしても、一致団結するのは困難だろう。とすれば、データ収集に制限を設けたり、データを提供した消費者への報酬支払いを義務付けるなど対策を検討するのは議会の役目だ。それが公平な競争の出発点になるのではないか。
●背景となるニュース
・アマゾンは15日に開始した米有料会員向けの2日間のセール「プライムデー」で、価格比較などを行う買い物支援アプリ「アマゾンアシスタント」を新規にインストールしたユーザーに、50ドル以上の買い物をした場合に10ドル相当のクレジットを提供するキャンペーンを展開している。アシスタントはアマゾンと競合する小売業者のウェブサイトから検索結果やコンテンツなどの情報を収集、処理する。アマゾンによると、顧客がアシスタントの機能を利用してアマゾンの販売する商品との価格比較などを行わない限り、アシスタントがこうした情報をユーザーのアカウントと結び付けることはないという。昨年は25ドル以上の買い物をしたアシスタントの新規ユーザーに5ドル相当のクレジットを提供した。
・米下院の反トラスト小委員会は16日にオンライン市場の競争に関する公聴会を開き、アルファベット、アマゾン、アップル、フェイスブックの幹部が証言する。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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