焦点:米長短金利逆転、景気後退のほか政策対応巡る不安も反映

焦点:米長短金利逆転、景気後退のほか政策対応巡る不安も反映
 8月14日、米連邦準備理事会(FRB)は先月、約10年半ぶりに利下げを実施した際に、追加利下げは必要ないのではないかとの考えを示唆した。写真はニューヨーク証券取引所で13日撮影(2019年 ロイター/Eduardo Munoz)
[ニューヨーク 14日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は先月、約10年半ぶりに利下げを実施した際に、追加利下げは必要ないのではないかとの考えを示唆した。債券市場はこうした見方に激しく異を唱えている。
14日には米国債利回りの低下が進んで、イールドカーブの重要部分で12年ぶりに長短利回りが一時逆転(逆イールド化)し、債券投資家が米国と世界の経済の先行きについて、FRBよりもずっと悲観的にとらえている様子が示された。
シーポート・グローバル・ホールディングスのマネジングディレクター、トム・ディガロマ氏は「金利市場は滅多にうそをつかない。そして世界的な『終末の日』の到来を予想しているようだ」と述べた。
不安が高まっているのは、FRBの利下げが後手に回っているかもしれないという点だけではない。主要中央銀行がそれぞれ緩和に動いて経済成長のてこ入れを試みる中で、もはや景気刺激の手段が尽きてきたのではないかという問題も出ている。
米長期債利回りは、経済データの悪化や物価圧力の弱さ、米中貿易摩擦の激化、香港の「逃亡犯条例」改正を巡る混乱などを受けた安全資産需要の高まりを背景に、低下を続けてきた。
その結果、14日には10年物国債利回りが2年物国債利回りを2.1ベーシスポイント(bp)下回る局面が出現。リフィニティブによると、両者の逆イールド化は2007年以来。歴史的には景気後退(リセッション)の到来を告げる指標として高い信頼度がある。
投資家は既に、米中摩擦が世界的なリセッションにつながり、10年にわたる米株の強気相場の幕を引くと恐れていただけに、この逆イールドを見て動揺が広がり、米株の主要指数は軒並み急落した。
TDセキュリティーズの金利ストラテジスト、ジェナディ・ゴールドバーグ氏は「市場参加者は、世界経済の成長が弱まっているとより確信し、米国のセンチメントにそれが伝染している兆候を読み取り始めている。長期金利の低下からは、主要中銀が世界的な成長の失速に対処する力が果たしてあるのかという相当な不信感が存在していることを強くうかがわせる」と指摘した。
<金融政策への過剰な負担>
今年初めの段階では、市場と主要中銀はともに世界経済の前途に関してもっと明るい見方をしていた。欧州中央銀行(ECB)は債券買い入れを打ち切ったばかりだったし、FRBは昨年4回実施した利上げを今年も継続しそうな態勢にあった。
しかし3月になると風向きが一変し、FRBは突然利上げサイクルを停止。期待外れの米製造業関連データが出たこともあり、米国債市場では07年以降で初めて、3カ月物財務省短期証券と10年国債の利回りが逆転し、その後7月にFRBが08年以来となる利下げに踏み切った。
主要中銀の置かれている状況を見渡せば、FRBは政策金利の引き下げ余地を残している分、金融緩和に動く上でより有利だ。実際、債券市場は、FRBが年内にあと2回、来年前半にさらに1回利下げすると想定している。
一方でECBはマイナス金利の深堀りと債券買い入れの再開を検討中。日銀もマイナス金利の幅を拡大するとともに、資産購入を拡大することを視野に入れつつある。
ところが各中銀が緩和強化を競うことで、せっかくの政策効果は互いに打ち消されてしまいかねない。
BMOキャピタル・マーケッツの金利ストラテジスト、ジョン・ヒル氏は「現実として世界中の中銀が見通しの悪化に対応し、利下げや各種緩和措置を講じることを目指している。だから基本的に、FRBだけが他と無関係に利下げしているわけではない」と話す。
先週にはニュージーランド準備銀行が予想以上の幅で利下げした上で、必要ならマイナス金利を導入する可能性もにおわせた。インド、タイ、フィリピンの中銀も先週利下げしている。
バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのFXストラテジスト、アタナシオス・バムバキディス氏は最近のリポートで「近年は金融政策に過大な負担がかかってほぼ効果を失わせているか、一部ではかえって有害な影響をもたらしている。中銀がコントロールできる範囲を超えた問題に、限定的でしばしば実験的な手段を用いて対処しようとしているからだ。これは持続可能な状況ではなく、好ましい結果を生まない可能性があることを示すいくつかの材料が見られる」と記した。
(Karen Brettell記者)

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