焦点:中小運用会社のトレーディング外注化加速、新たな商機に

焦点:中小運用会社のトレーディング外注化加速、新たな商機に
 8月6日、ゴールドマン・サックスの元トレーダー、ベンジャミン・アーノルド氏(37)の仕事は夜10時から始まる。写真はロンドンのノーザン・トラストのオフィス。1日撮影(2019年 ロイター/Toby Melville)
[ロンドン 6日 ロイター] - ゴールドマン・サックスの元トレーダー、ベンジャミン・アーノルド氏(37)の仕事は夜10時から始まる。米ユタ州に構えた小さなオフィスでアジアの株式取引を本格的に行う。ただし自己勘定ではなく、顧客になっているアジアの資産運用会社のために注文を出し、取引を執行しているのだ。
アーノルド氏はヘッジファンドや銀行で15年間働いた後、トレーディングを請け負う会社を立ち上げ、中小の資産運用会社から強まる一方の需要を取り込もうとするニッチ企業の一群に加わった。
同氏は「手をこまねいて世界の変化をただ見守るか、積極的に足を踏み入れてその変化の一員になるかを決める時期が来ている」と話した。
背景には、規制強化に伴う負担増や乏しい利益率、急速な技術発展を受けて多くの資産運用会社がコスト削減を迫られ、日々のトレーディングを外部の企業に任せようとしている流れがある。
トレーディングの外注需要は今年に入って加速。特に欧州連合(EU)が昨年、第2次金融商品市場指令(MiFID2)を導入したことで、資産運用業界は厄介な書類手続きが増え、窮地に陥っている。
ロイターが資産運用会社や銀行、証券会社などの幹部に取材したところでは、中小の資産運用会社にとって自前で2人のトレーダーを雇うよりも、トレーディングを外注する方が最大で40%もコストが少なくて済むという。
トレーディング部門立ち上げの支援や資産運用会社への規制関連の助言をしているエルゴ・コンサルタンシーのマイケル・ブロードベント氏は、今年は外注化への「巨大な移行」が見られると話す。
トレーディング外注ビジネスはまだ生まれたばかりだ。ただ専門家によると、ヘッジファンド運用者などの大手機関投資家向けに複雑な金融サービスを提供するプライムブローカレッジ業務では、最も成長著しいセグメントの1つになっている。
現在は約25社がトレーディング請負サービスを展開し、このうち少なくともウェルズ・ファーゴ、BTONファイナンシャル、そしてアーノルド氏のメラキ・グローバル・アドバイザーズなど4社は今年事業を開始した。数年前、こうしたサービスを行っていた企業はごく少数だった。
先月には中堅ブローカーのINTL FCストーンがプライムブローカレッジ業務強化に向けて、トレーディング請負会社フィルモア・アドバイザーズを買収した。
ノーザン・トラストやジェフリーズ・ファイナンシャル・グループといった一部の有力金融機関も、幅広い顧客のために社内にトレーディングを請け負う独自の外注チームを設置している。
これらのトレーディング請負部門は、資産運用会社などの「バイサイド」の投資家の実質的な手足として機能し、あらゆる分析作業や管理業務、法令順守などを代行する。顧客の注文を単に執行するだけの「セルサイド」のトレーディング事業とは全く内容は異なる。
<拡大する市場>
金融コンサルティング会社オピマスの調査では、資産額500億ドル超の資産運用会社の5社に1社は、2022年までにトレーディング部門の一部を外注化する見通しだ。外注ビジネスの世界全体の収入は年間4億5000万─5億ドルで、1年で20─30%増加すると予想される。
トレーディングをそれほど頻繁に手掛けなかったり、内部のチームを維持するコストに見合うだけの取引額がない中小の資産運用会社にとっては、外注化の魅力は高まる一方だ。
オピマスは、ある資産運用会社の株式トレーダーの年間取引額が15億ドル未満なら、外注化の方が安上がりになるとみている。
ノーザン・トラストに日々のトレーディングを完全に任せ、戦略的な問題に注力できるようにしているクラックス・アセット・マネジメントのカレン・ザカリー最高執行責任者(COO)は、この態勢を維持していくのが好ましいとの見方を示した。
複数の市場参加者やリサーチ部門の担当者によると、資産運用会社は一般的に外注化によって取引1件当たり約5ベーシスポイント(bp)の費用を支払うが、社内でトレーディングを行った場合の費用は8bp前後になる。また専門家の試算では、3人態勢のトレーディング部門の年間コストはおよそ150万ドルに上る。中小の資産運用会社が通常雇っているトレーダーは2、3人だ。それに加えて、規制当局への取引を報告したり、MiFID2を守るためのコストも負担しなければならない。
<待望の収益源>
銀行・証券業界では、トレーディング請負サービスを提供する動きは広がる一方だ。自分たちも規制に苦しめられ、慢性的な低金利の逆風にさらされている彼らにとっては、待望の収益源が登場した形だ。
グリニッチ・アソシエーツのシニアアナリスト、リチャード・ジョンソン氏は「セルサイドも独自の課題に直面している。固定費が増加し、手数料のプールは縮小しているからだ。この動きの中で、トレーディング外注は強力なニッチ(隙間)と手を出さずにはいられない価値ある事業を生み出した」と説明した。
ノーザン・トラストがトレーディング請負を始めたのはほぼ2年前で、現在は32社の顧客を抱える。機関投資家向けブローカレッジ責任者ゲーリー・ポーリン氏は、18人で構成する請負チームは昨年、1450億ドル相当の株式取引を行ったと述べた。トレーダー1人当たりでは80億ドル前後になる。
ジェフリーズのプライムブローカレッジ部門がトレーディング請負に乗り出したのは昨年6月で、共同責任者ジョン・ラウブ氏は現在の顧客が70社だと明かした。
ラウブ氏の話では、16年時点で新興の資産運用会社のうちトレーディングを外注していたのは全体の10%弱だったが、今は7割を超えている。
メラキのアーノルド氏は「トレーディング外注はまだ成長が始まったばかりの段階で、われわれのような企業を利用する資産運用会社はこれからどんどん増えていくと考えている」と語った。
(Thyagaraju Adinarayan記者、Helen Reid記者)

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