アングル:米短期市場で起きた混乱、その意味とFRBの課題

アングル:米短期市場で起きた混乱、その意味とFRBの課題
9月18日、今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)に向けてあらゆる面で万全の準備を整えていたはずの連邦準備理事会(FRB)にとって、短期金融市場の深部で起きた混乱は思いがけない「伏兵」になった。写真は米ドル紙幣。2018年2月撮影(2019年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)
[18日 ロイター] - 今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)に向けてあらゆる面で万全の準備を整えていたはずの連邦準備理事会(FRB)にとって、短期金融市場の深部で起きた混乱は思いがけない「伏兵」になった。
銀行が利用可能な資金は一時ほとんど枯渇し、一部の翌日物取引では金利が最大10%と政策金利の4倍を超えた。
このためFRBは過去2日間で1250億ドルを超える資金供給を強いられた。10年余り前の金融危機以降で初めての大規模な市場調節だったが、17日はフェデラルファンド(FF)金利をFRBの誘導目標内に収めることはできなかった。
短期市場の資金需給ひっ迫をもたらした正確な原因が何かは議論の余地がある。ただ大半の市場参加者は、16日に2つの出来事が重なったことが少なくともその一因になったとの見方で一致している。1つ目は、四半期ごとの納税に備えて企業が市場から資金を引き揚げたこと。もう1つは、先週の入札で780億ドルの米国債を購入した銀行や投資家の決済日に当たったことだ。
それに加えて、銀行がFRBの口座に置き、短期市場での資金のやり取りに利用される超過準備が2011年以来の低水準になっていたという面もある。超過準備は、FRBのバランスシート縮小とともに減少した。
これらの要素が絡み合い、レポ市場はその機能を試される形になってしまった。だが原因が何であれ、今回の市場の混乱で、FRBがレポ市場安定化のために手を打つ必要があるとの声が強まっている。
以下にレポ市場の働きやFRBにできる対策などをまとめた。
◎なぜレポ市場が重要なのか
レポ市場は米国の金融システムの大きな部分を支え、銀行が日々の業務運営に対応したり、準備金を維持するための流動性を確保する手助けをしている。
取引の仕組みは、銀行や証券会社が相手方に米国債やその他質の高い証券を担保として差し入れ、必要な資金を調達するというもの。期間はオーバーナイトとなることが多く、次の日に借入金と金利を支払って担保証券を買い戻す。
通常ならレポ金利はFF金利に近い水準で推移するが、世界金融危機時のように資金の出し手にとって不安が高まったり、調達可能な資金が不足していると、FF金利を大きく上回る。
そうなると株式や債券のトレーディングが難しくなるし、企業や消費者向けの貸し出しにも支障が出てくる。市場の混乱が長期化すれば、与信の流れに大きく依存する米経済の足を引っ張りかねない。
◎銀行の超過準備が減少した要因は
FRBが政策金利をゼロ付近まで引き下げ、3兆5000億ドル強の債券を購入して金融危機を抜け出した後、銀行の超過準備は極めて高い水準になった。
ただピーク時に2兆8000億ドルに迫った超過準備は、FRBが15年終盤に利上げを開始すると減少し始め、その約2年後にバランスシート縮小に乗り出したことで減少ペースが加速した。
FRBは昨年で利上げを停止し、7月と今月に2回利下げを実施。バランスシート縮小も止めている。
頭を悩ませている政策担当者が現在抱いている疑問は、これらの措置で、レポのような短期金融市場にとって主な流動性の供給源となっている超過準備の減少に歯止めをかけるのに十分かどうかだ。
足元の超過準備は1兆4700億ドルと11年以降の最低水準にあり、5年前の半分近くに落ち込んでいる。
◎レポ市場安定化に向けてFRBができることは
(1)レポ取引での市場調節
FRBはニューヨーク連銀を通じて、資金調達がストレスを受けた際にはレポ取引で市場調節ができる。つまり銀行や証券会社は、米国債などを担保にすれば最低限の金利で借り入れが可能だ。実際17日と18日にこうした調節が実施された。
(2)超過準備に適用する付利の引き下げ
付利の引き下げで銀行、特に外国銀行はFRBにお金を預けておく魅力が低下し、短期市場に資金を出そうとするだろう。
(3)レポ市場の資金供給ファシリティー創設
こうした恒久的な供給制度ができれば、要件を満たす市場参加者は一定の金利でいつでも担保を差し入れて資金を調達できる。
FRBは事務方も含めてこの制度を検討しているが、具体的な参加資格の要件や、金利水準などをまだ決めていない。
(4)米国債の保有拡大
FRBが米国債保有を幾分増やせば、超過準備を押し上げられる。もっともそれは市場調節ではなく量的緩和の再開と受け取られるリスクをもたらす。
◎これまでのFRBの対応は
超過準備の付利は30ベーシスポイント(bp)下げられ、1.80%になった。これでFF金利の誘導目標上限との差は、以前の15bpから20bpに拡大した。
レポ取引での市場調節で提示した金利は1.70%で、FF金利の誘導目標下限より5bp低い。

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