焦点:トランプ大統領弾劾はあるか、公聴会の次に起こること

焦点:トランプ大統領弾劾はあるか、公聴会の次に起こること
 11月21日、民主党が過半数を占める米議会下院は、トランプ大統領の「ウクライナ疑惑」に関する公聴会に区切りを付け、トランプ氏の「重大な犯罪及び非行」を理由に弾劾訴追へ向けて動きつつある。写真は20日、米首都ワシントンで行われたトランプ米大統領のウクライナ疑惑を巡る米下院情報特別委員会の弾劾公聴会。代表撮影(2019年 ロイター/Erin Schaff)
Jan Wolfe and Richard Cowan
[21日 ロイター] - 民主党が過半数を占める米議会下院は、トランプ大統領の「ウクライナ疑惑」に関する公聴会に区切りを付け、トランプ氏の「重大な犯罪及び非行」を理由に弾劾訴追へ向けて動きつつある。弾劾の基本的な仕組みや、次に予想される事態、なぜトランプ氏が職を追われる公算が乏しいのか、などを以下で説明する。
<弾劾が求められる理由>
米国の建国者たちは、大統領が権力を乱用することを恐れ、憲法に大統領を罷免できる制度を盛り込んだ。その憲法では「反逆、賄賂、その他重大な犯罪及び非行」に手を染めた大統領は罷免できると記されている。伝統的に、この重大な犯罪及び非行には汚職や公共の信頼の悪用なども含まれると解釈されてきた。
かつて大統領を務めたジェラルド・フォード氏は議会で「弾劾に値する違反というのは、歴史のある瞬間に下院議員の大半がそう思うこと全てが該当する」と発言した。
これまで弾劾によって直接職を追われた大統領は皆無。リチャード・ニクソン元大統領は、罷免の恐れが生じる前に自ら辞任した。アンドルー・ジョンソン元大統領とビル・クリントン元大統領は、下院が弾劾訴追したものの、上院で有罪判決は出なかった。
<弾劾手続き>
まず下院で審議され、大統領に対する弾劾決議ないし「弾劾条項」に単純過半数が賛成すれば、訴追が成立する。現在は下院の3つの委員会が証人への聴取やトランプ氏の不正を立証するための証拠集めを行っており、「弾劾調査」と呼ばれている。
下院が弾劾条項を可決した場合、上院で弾劾裁判が開かれる。下院メンバーが検察官、上院メンバーが陪審員となり、連邦最高裁長官が裁判を主宰する。上院の3分の2が有罪と認めた場合、大統領は罷免される。
<上院は弾劾裁判を拒否できるか>
憲法が上院での弾劾裁判の開催を義務付けているかどうかは議論が分かれている。上院が「全ての弾劾を裁く唯一の権限」を持つというのが憲法の文言だ。
一方、上院の現行ルールでは実質的に、弾劾には裁判が必要とされている。与党・共和党のマコネル上院院内総務も、裁判手続きを認めると公言してきた。
共和党側はこのルール変更を求めることも可能だが、法律専門家は、政治的リスクがあり、実現しそうにないとみている。
<裁判開始後すぐに打ち切り>
このシナリオはより現実味がある。上院のルールに基づけば、各議員は結審前に大統領弾劾訴追を無効とする動議を提出できる。その動議が単純過半数で可決されれば、弾劾手続きは事実上幕引きとなる。
ビル・クリントン氏の弾劾裁判は5週間で終わり、有罪判決は下されなかったが、その途中でクリントン氏に同情的な民主党議員が弾劾無効動議を提出し、否決される場面があった。
<最高裁は弾劾を覆せるか>
それはできない。トランプ氏はツイッターで、民主党が弾劾しようとするなら最高裁に介入を要請すると発言している。しかし建国者らが、上院の有罪判決について連邦裁判所に異議を申し立てることを認めていないのは明白だ。
<議会の勢力図>
現在下院は431議席のうち民主党が233議席を占めている。つまり共和党の支持なしでトランプ氏の弾劾訴追が可能だ。
共和党が多数派だった1998年の場合も、民主党のビル・クリントン氏の弾劾訴追を巡る採決はおおむね党派で賛否が分かれた。
上院は共和党53人、民主党45人、無所属2人という構成で無所属議員は通常、投票行動で民主党と同一歩調を取る。弾劾裁判で有罪を宣告するには、3分の2の賛成が必要なので、トランプ氏を罷免するには定数100人全員が投票するとすれば、少なくとも20人の共和党議員が民主党全議員プラス無所属議員とともに有罪を支持しなければならない。
<トランプ氏が罷免された場合の後継者>
万が一、上院がトランプ氏の有罪判決を下せば、トランプ氏の残りの任期(2021年1月20日まで)はペンス副大統領が大統領に昇格する。

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