コラム:スタバ創業者の米大統領選出馬、なぜ歓迎すべきか

コラム:スタバ創業者の米大統領選出馬、なぜ歓迎すべきか
 2月12日、米コーヒーチェーン大手スターバックスは創業以来、全米店舗を一斉に一時休業したことが2度ある。写真は、独立候補として2020年の米大統領選に立候補することを検討していると公言した創業者のハワード・シュルツ前会長兼CEO。2016年撮影(2019年 ロイター/Andrew Kelly)
Rob Cox
[パリ 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米コーヒーチェーン大手スターバックス(スタバ)は創業以来、全米店舗を一斉に一時休業したことが2度ある。
最初は11年前。顧客サービスを改善して、売上低迷に対処するため、同チェーンで働く13万5000人のバリスタが、全米約7000店舗で「ラテアート」の再研修を受けたときだ。
2度目は昨年だ。フィラデルフィアのスタバ店舗で2人のアフリカ系米国人の常連顧客が不法侵入容疑で誤認逮捕された事件を受けて、国内50州の従業員17万5000人を対象に、4時間に及ぶ人種差別問題を巡る研修が行われた。
最初の休業がもたらした効果には異論の余地がない。このときの3時間に及ぶ研修から5年も経たないうちに、スタバは同社史上最高の業績を収め、米既存店舗ベースで売上高が8%増え、株価は3倍に膨らんだ。
2度目の一時休業によって、スタバは5000万ドル(約56億円)を失ったが、株価は約20%上昇し、S&P500指数の伸びを大きく上回った。
偏見をなくすという点で、スタバがどれほど前進したかを測定する方法はない。だがこの事例は、望ましい行動と商業的な成功には関連性があることを示唆している。
一見無謀とも思える同社創業者ハワード・シュルツ氏による大統領選への挑戦から何か成果があるとすれば、このことだろう。同氏は、独立候補として立候補することを検討している。
ミラノのコーヒースタンド文化を借用すrことで大富豪となったシュルツ氏が、無所属候補として2020年米大統領選への出馬を検討していることは、票の分散を懸念する民主党関係者を中心に、多くの人々を嘆かせている。
しかし、本来は民主・共和両党とも、自党候補としてシュルツ氏を勧誘すべきなのだ。巨大コーヒーチェーンの会長兼最高経営責任者(CEO)として同氏が追求してきた良心的な資本主義こそ、米国の企業と社会にとっての健全な模範となるだろう。
スタバの全米店舗を数時間閉めたことは、1980年代初頭に同社を創業してから昨年引退するまでに、シュルツ氏が達成した主要な業績としてはカウントされないだろう。
だが、同じ期間に10度も120日間にわたって米連邦政府機関が一部閉鎖された事態と、スタバ店舗における2度の休業は、好対照を成している。
政府機関の閉鎖がこの国のためになったと主張することは難しい。トランプ米大統領が固執するメキシコとの国境沿いに壁を築く予算を巡り、政府機関が35日間、一部閉鎖された直近の事例はなおさらだ。
シュルツ氏がスタバで達成した成果は、ほぼすべてが重要だ。したがって、彼が大統領選出馬に意欲を見せていることを、単なる大金持ちのほら話と片付けることは賢明ではない。
確かに、酔狂と呼べる部分は若干ある。シュルツ氏には30億ドルもの資産がある。スタバは他企業よりも民主的な組織ではあるが、シュルツ氏が自ら選んだ取締役たちや経営陣を持ち上げる株主たちから異議申立てをされる例は限られていたため、CEOレベルでは尊大な空気が広がりがちだった。
だが、スタバが達成した項目のいくつかは、まるで進歩的な政治勢力のためのチェックリストのようだ。医療保険へのアクセス、従業員向けの教育費補助、社会的に不利なコミュニティにおける雇用機会の拡大、退役軍人と難民の積極的雇用──。スタバではどれも合格点だ。
さらに、これらは数十年にわたって育まれた政策であり、2020年の大統領選に向けた準備として、あるいはブラックロックのラリー・フィンクCEOが昨年、世界の企業トップに送った書簡への対応として用意されたものではない。
ところが、シュルツ氏は民主党から邪魔者扱いされている。
民主党が提唱してきた国民皆保険や学費無料の教育制度こそ、スタバがホワイトカラー層以外の幅広い従業員のために社内で推進してきた福利厚生制度であるのにもかかわらず、だ。
かつてクリントン政権時代に労働長官を務めたロバート・ライシュ氏は今月、「10億ドル以上の資産を持つ人間は、解体されるべき独占状態を悪用したか、他の投資家には入手できないインサイダー情報を使ったか、一部の政治家に賄賂を贈ったか、もしくは(以上のどれかで稼いだ)両親から遺産を相続したのだ」とツイッターに投稿した。
確かにシュルツ氏は、民主党が望んでいるようなキャピタルゲインや高額所得、遺産相続に対する税率引き上げの実現に向けて積極的に遊説はしないかもしれないが、だからといって、感謝祭から目を背けたがる七面鳥のように同氏を扱うことは単純すぎる。
シュルツ氏はそのキャリアを通じて、事実を受け入れ、失敗を認める姿勢を示してきた。米プロバスケットボール協会(NBA)のチーム運営や、反人種差別キャンペーン「Race Together(人種共存)」などが自身が認めてきた失敗例として、同氏の新著「From the Ground Up(原題)」で紹介されている。
トランプ大統領に対する批判票がシュルツ氏に流れてしまうのではないかと、民主党関係者や多くの中道主義者が懸念するのは、これまでの無所属候補を巡る経験を考慮すれば、確かに無理もない。
米国の選挙制度では、例えばフランスのマクロン大統領率いる「共和国前進(REM)」のような新党が、下院の議席はともかく、大統領の座を獲得することは事実上不可能だ。
またシュルツ氏は、保有するスタバ株式を売却することにより、利益相反の批判を急いで打ち消す必要があろう。同社が中国で共産党政権の厚遇を得て大きなプレゼンスを築いていることを考えれば、なおさらだ。
だが、これこそまさに、公然と無所属での立候補を検討しているシュルツ氏が賢明な理由なのだ。もしシュルツ氏が、例えばブルームバーグ前ニューヨーク市長などと並び、民主党の新たな大富豪候補として参戦するだけなら、もっとも大きなサイズの「パイクプレイスロースト」コーヒーに入れたスキムミルクのように跡形もなく溶けてしまうだろう。
資本家としての彼の業績はほとんど関心を集めないはずだ。2012年の共和党予備選に出馬したものの、あっというまに消えてしまったジョン・ハンツマン氏の中道左派版になるのが関の山だ。
仮に、シュルツ氏がツイッター上での日常的な応酬の域を超えた大きなメッセージを届けられるとすれば、彼は幅広い政治論争に影響を与えることができるかもしれない。
少年時代を公共住宅で送った同氏ならば、ブルックリン出身でやはり無所属のバーニー・サンダース上院議員による左派的な成功者批判を無効にすることさえできるだろう。
父親が借金取りに暴行されるのを防ぐため、隣家に5000ドル貸してくれと頼まざるを得なかったというシュルツ氏のエピソードは、エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)の口から語られても不思議はないくらいだ。15年後、父親の葬儀の席で、彼はようやくその借金が未返済のままだったことに気づいたという。
涙ぐましいエピソードはともかく、シュルツ氏が大企業の構築に成功したことは、トランプ大統領の事業例に対してもポジティブな対抗言論になり得る。同族経営のトランプ・オーガニゼーションは、大統領の父親が設立資金を出しており、言葉の本来の意味で「レントシーキング(家賃を取り立てる)」事業である。
対照的にスタバは、透明性の高い公開企業であり、数十万人もの有給雇用を生み出している。また、1992年の株式公開時に1万ドルを投資していれば、現在、その価値は配当込みで200万ドル以上になる。こうした自社株買い戻しがサンダース氏などの民主党関係者から批判されているわけなのだが。
シュルツ氏が自著で主張しているように、「私たちが米国民だからといって、米国の都合のいい方向に未来が曲がるわけではない。私たちが、未来の針路を変え、押しやり、動かさねばならない」のだ。
これこそ、シュルツ氏が民主党支持者たちに与えている警告かもしれない。彼らが賢明であれば、同氏を味方に取り込む方法を見つけるだろう。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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