焦点:米株に新たな「頭痛の種」、企業収益見通しが急速悪化

焦点:米株に新たな「頭痛の種」、企業収益見通しが急速悪化
12月10日、米企業は来年の業績見通しが急速に悪化している。米株式市場に悲観的なまなざしを向ける投資家にとって、また心配の種が増えた格好だ。写真は7日、ニューヨーク証券取引所のトレーダー(2018年 ロイター/Brendan McDermid)
Caroline Valetkevitch
[ニューヨーク 10日 ロイター] - 米企業は来年の業績見通しが急速に悪化している。米株式市場に悲観的なまなざしを向ける投資家にとって、また心配の種が増えた格好だ。
業績見通し悪化の背景には大規模減税による効果の減衰や米中通商紛争の影響への不安がある。S&P総合500種指数<.SPX>は今年に入って2度の調整を受けたが、増益率の鈍化を十分に反映していないのではないかとの不安が投資家の間で広まっている。
アナリストによるS&P500種構成企業の来年の増益率予想は8.2%と、2カ月前の10.2%から切り下がり、実際にはこの半分以下に落ち込むとの見方が増えている。
キングスビュー・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ポール・ノルテ氏は「3─4%程度になりそうだ」と予想。市場はまだ業績見通し悪化を織り込んでいないとした。「予想は下振れするリスクがある。まだ市場は業績ではなく通商の方にこだわっている」という。
モルガン・スタンレーは前年比増益率が2四半期連続で低下する「穏やかな業績リセッション」に陥る確率は50%と警告した。こうした状況が起きれば2015年第3・四半期から4四半期連続で鈍化して以来となる。
この数週間にRBCキャピタル・マーケッツ、BNPパリバ、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの首席ストラテジストが相次いで来年の米企業の1株利益伸び率の見通しを示したが、いずれもリフィニティブがまとめたアナリスト予想を下回った。
見通しの引き下げがきつかったセクターは、これまで相場をけん引してきたハイテクと通信。ハイテクは第3・四半期の前年比の1株当たり利益の伸びが29.2%だったが、最新予想では来年は第3・四半期の伸びが2.2%に減速し、通年で4.9%強にとどまる見込み。ソーシャルメディアを含む通信サービスは来年の増益率の予想が6.7%となり、10月1日時点の予想の11.6%から下振れした。
バンク・オブ・ニューヨーク・メロン・インベストメント・マネジメントの首席市場ストラテジストのアリシア・レビーン氏は「ハイテクセクターの利益が消滅することはないが、けん引役ではなくなる」と話す。
米株式市場は今年2月、好調な業績と力強い米成長を支えに、急落から持ち直した。当時は企業が大規模減税策の成立を受けて自社株買いや設備投資計画を次々と打ち出し、業績予想は急速に切り上がっていた。しかし年末が近づくにつれて国債市場が景気減速の警告を発するようになり、投資家は通商紛争への懸念を強めている。米連邦準備理事会(FRB)も今月、今年4回目となる利上げを決める見通しだ。
さらに米企業ではこの数カ月に賃金上昇による利ざや縮小という懸念も浮上。ストラテジストの中には、最近の株安は増益率見通しの下方修正が一因との声も出ている。
一方、企業の増益率は大幅に下がっても、なお株式市場を支えるのに十分な水準にとどまるとの見方もある。
クレディ・スイス・セキュリティーズの首席米投資ストラテジスト、ジョナサン・グロウブ氏は「非常に高水準な状態から、今後は健全かつ持続可能な水準になる」と述べた。アナリストは長期的な利益の伸びを過大に見積もる傾向があり、予想が下方修正されても投資家は驚くべきではないという。

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