米中「第1段階」通商合意、険しい両国関係に希望の灯ともさず

[ワシントン/北京 16日 ロイター] - 貿易協議の第1段階の合意で米中の通商関係は一定の打開ができたが、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)から南シナ海に至る両国間の深い政治的な溝はこれからも続くことになる。ますます力を強め専横的になる中国に対抗して、米国が角突き合わせるためだ。
この2大経済大国の関係は、トランプ米大統領が2018年に中国に制裁関税を課し貿易戦争が火を噴いて以来、急激に悪化した。
中国の安全保障政策が専門の豪マッコーリー大学のベーツ・ギル氏は15日の合意について、「より幅広く、暗い見通しの構図がこれで大きく明るくなることはない」と述べた。
背景にあるのは中国による南シナ海の軍備強化、台湾を巡る緊張の高まり、香港や新疆ウイグル自治区の人権問題を巡る米国の対中批判、米国によるファーウェイへの締め付けなど幅広い。
今回の合意は、世界の経済成長に打撃を与えてきた1年半もの対立を鎮めるものだが、専門家は、軍事力の近代化を伴う経済、技術面での中国パワーに米国が抱く懸念に根差す幅広いあつれきがあり、これにとっては大した薬になりそうもないとみる。
豪ニューサウスウェールズ大学で米中経済関係を研究するワン・ヘン教授は「第1段階合意は熱を下げるための救急処置とみることができる。根源的な問題の解決ではない」と指摘した。
<敵対心>
トランプ政権は中国の技術が安全保障に及ぼす影響にますます警戒感を強めており、中国による主要技術取得を監視するルールを強化した。世界的な部品供給の流れを変える試みにも着手した。
マッコーリー大のギル氏は「この点に中国の指導部は無頓着ではない」と語る。「中国は敵対的な環境の中で、すでに主体的に動き、将来を考えつつある」という。
トランプ政権は昨年5月、ファーウェイを安全保障上の懸念に基づき、米政府の許可のない製品輸出を米企業に禁じるリストに登録した。人工知能(AI)ソフトウエアの対中輸出を規制する措置も導入した。
来月13日には外国投資の監視を強化する新規制が発効し、対米外国投資委員会(CFIUS)の権限が強化される。CFIUSは既に中国企業に対し、どんどん牙をむきだしにしている。CFIUSは外国企業が米国の安全保障を阻害しないよう、企業の合併や株式の購入を審査する委員会。この介入により、中国企業の対米投資は大幅に落ち込んでいる。リフィニティブのデータによると、2019年の中国から米国への直接投資は19億ドルと、ピークの16年から90%も減った。
米中は台湾を巡っても対立する。台湾は米国を最大の武器供給国として頼りにする一方、中国は台湾が領土の一部だと主張している。
台湾の11日の総統選で再選された現職の与党民進党の蔡英文氏は、中国からの圧力や支配には屈しないと言明した。
蔡氏の再選には香港の7カ月にわたって続く反政府デモが追い風となった。中国政府は米政府が香港の抗議行動をあおっており、香港でのような「一国二制度」を台湾に当てはめたい中国の願いを損なっていると非難している。
米陸軍のライアン・マッカーシー長官は先週、「中国は米国にとって戦略的な脅威として台頭する」と述べ、中国に対抗するため、向こう2年間で太平洋地域に情報、電子、サイバー、ミサイルなどの作戦を展開する2つの特別部隊を配備する計画を明らかにした。
これについてムニューシン財務長官は15日のCNBCテレビで、米国は中国が絡む通商以外の問題に懸念を抱いているが、こうした課題は個別に対処すべきだと表明。「交渉は異なるタイミングで、それぞれ別に行う必要がある」と語った。

※原文記事など関連情報は画面右側にある「関連コンテンツ」メニューからご覧ください

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab