由緒ある歴史を守るために立ち上げた

喫茶を運営する『くらづくり本舗』は、明治20年(1887)に川越で創業した、埼玉県を代表する和菓子店だ。特に川越の名産、さつまいもを使用した菓子は老若男女から愛されるベストセラーとして長きにわたり販売される。

和菓子店に限らず、この喫茶も昭和57530日に開店と実は歴史が長い。

『くらづくり本舗 一番街店』のすぐ右横に、喫茶へと続く小道がある。
『くらづくり本舗 一番街店』のすぐ右横に、喫茶へと続く小道がある。

『くらづくり本舗』がこの場所で菓子店と喫茶を始めたのには訳がある。

蔵の街並みというのは一見すると風情があり美しいが、それを維持するのはとても難しい。

喫茶が入るこの蔵も、元は呉服店の店舗や居住スペースとして使われていたが、何十年と経過して朽ちていた。そこを『くらづくり本舗』の現会長が借り受けた。

市民が愛する蔵の街並みを大切に保持して使って欲しい、という願いに応えたかたちだった。

風情漂う喫茶スペース。文化財として丁寧に維持されており、重厚な歴史を感じる。
風情漂う喫茶スペース。文化財として丁寧に維持されており、重厚な歴史を感じる。

伝統のレシピを受け継ぐ食事メニュー

喫茶では、食事メニューも充実、季節に合わせた甘味も豊富に用意する。

中でもせいろ飯「蔵飯」は、福島会津の老舗料理旅館『田事(たごと)』に出向き、伝統のレシピを教わって作り上げたメニューだ。シンプルな見た目の料理ながら手間をかけており、毎朝鮭の半身を丁寧にほぐして炊き上げるわっぱ飯と、丁寧に手入れをして寝かせた自家製味噌を、田楽に合わせて提供する。

一見シンプルな味のように感じられるが、滋味深く素材の持つ自然な風味を噛みしめられる。

店蔵御膳1580円。「蔵飯」と「田楽」のボリュームあるセット。それぞれ単品での注文も可能だ。
店蔵御膳1580円。「蔵飯」と「田楽」のボリュームあるセット。それぞれ単品での注文も可能だ。

「ここで働き2021年で8年目になりますけれど、諸先輩方が代々受け継いできたレシピを守りながら作り続けることは、責任重大です。伝統の重みを感じながら毎日作っています」

と語るのは、厨房で舵を切るスタッフの上野さん、山本さんだ。

社長にその腕を認められ、レシピの受け継いでいるのだという。

明るく快活なスタッフ。左から浅見さん、上野さん、山本さん。70代で現役の方も。
明るく快活なスタッフ。左から浅見さん、上野さん、山本さん。70代で現役の方も。

食事メニューのもう一つ、餅の数々もあなどれない。

毎朝工場で喫茶専用の餅をつき、つきたてのまま直送する。市販の切り餅とは一線を画した柔らかく伸びやかな食感だ。

キリッと苦味が広がるからみ大根と、おなじみの味である品川餅(磯部餅)の2種類があり、食事としてもおやつとしても、選べるのが嬉しい。

からみ餅640円。箸で持ち上げると、驚くほどのびる柔らかさ。
からみ餅640円。箸で持ち上げると、驚くほどのびる柔らかさ。

和菓子店の利点を活かした甘味たち

喫茶というからには甘味を忘れてはならない。

口当たりのよい自家製寒天に、毎日店内で炊き上げるあんこ、名産さつまいもとさつまいもアイスを添えた、芋クリームあんみつは人気の品だ。フルーツたちも食感をしっかり感じられるように一つひとつがたっぷりとした大きさである。柔らかな味わいで、つい食が進んでしまう。

芋クリームあんみつ800円。お好みで黒蜜をかけて。
芋クリームあんみつ800円。お好みで黒蜜をかけて。

何より店1番の人気メニューは、べにあかパフェ。『くらづくり本舗』の人気商品、べにあかくんという名のスイートポテトが丸々一つ乗った姿は、一目で脳裏に焼き付くビジュアルだ。

「お客様から、べにあかくんの美味しい食べ方、アレンジ方法のアイデアをたくさんいただき、そうした声から生まれたパフェなんですね。看板商品を気軽に食べてもらい、興味を持ってくれたらうれしいですね」。

しっとりとした、べにあかくんから感じられるさつまいもとバターの風味に、季節のフルーツやフレーク、アイスクリームなどが絡み合い、より一層食べ応えが増す。

店1番のメニューべにあかパフェ770円。たっぷりのボリュームでお腹も大満足。
店1番のメニューべにあかパフェ770円。たっぷりのボリュームでお腹も大満足。

表通りから奥まった位置にある喫茶は、喧騒から離れた空間。まるで時代をタイムスリップしたかのようだ。

少し肩の力を抜きたい、ホッとしたいと思ったら、店横にある入り口をくぐり、そっと扉を開けて欲しい。きっとここで悠久の歴史を感じながら心穏やかに過ごすことができるだろう。

住所:埼玉県川越市幸町2-16 川越菓匠くらづくり本舗内/営業時間:10:00~16:00LO/定休日:不定休/アクセス:西武鉄道新宿線本川越駅から徒歩12分

取材・文・撮影=永見 薫