地元民に愛されるお酒豊富な旨いもの大衆酒場

JR高円寺駅北口から約2分。有名な高円寺純情商店街から一本入ったところにある『区民酒場 左利き』。北口の大きなロータリーを挟んだ先にある路地を進んでいくと、店が暖色のライトで浮かび上がり、ガラスの向こうにいかにも気楽で居心地の良さそうなテーブルの並ぶ店内が見通せる。

店の外にもいくつかの席が設けられていて、夏にはここでビールから始めてワイワイやるのも悪くないな、とその佇まいから早くも想像が膨らんでいく。

路地に現れる温かい光を放つ店。
路地に現れる温かい光を放つ店。

ご主人の齋藤友央さんは静岡出身。22歳で東京に出て来てから、和食、居酒屋さん、鉄板焼き、串カツ、最後に銀座の日本酒の繁盛店に勤め、ここ高円寺で自分のお店を開店することとなる。

店名の『左利き』は、齋藤さんが左利きなのかと思いきやそうではなく、「酒飲み」や「酒好き」の意味。もともとは大工道具の「ノミ」と「飲み」を掛けた言葉で、職人が左手にノミを持っていたことから「左利き」=「酒飲み」の意味となったもの。酒が押しのお店ならではの店名だ。

店内には落ち着ける木製の頑丈なテーブルが並ぶ。
店内には落ち着ける木製の頑丈なテーブルが並ぶ。

「高円寺は、知り合いが何軒かお店をやっていたりしていたのでもともと土地勘がありました。平日も、土日も人がいるのでビジネス街のように週末にお客さんが途切れるということもありません。会社員の人もいるし、住宅地でもあります。高円寺で働く人はもちろん、近隣に住んでいる方も来られるようなお店がいいと思いこの場所に決めました」と齋藤さん。

壁のメニューに迷う幸せ

店内に入ると、木製のがっしりしたテーブルがいくつも並び、奥に厨房。もう一面のカウンター越しには日本酒がぎっしり並んだ冷蔵庫が見える。そして壁や柱のいたるところに手書きのメニューが張り出され「さーて、今日は何飲む? 何食べる?」と語りかけられているようなウキウキした気持ちにさせられる。思わず店内の壁を360度チェック。

壁、柱のいたるところに旨そうな料理メニューが張られている。
壁、柱のいたるところに旨そうな料理メニューが張られている。

無限パクチー、九条ネギの塩昆布和え、蓮根の豚ミンチ挟み煮、ハムカツ、おでん、だし巻き卵。視線の行く先々に、どれも旨そうな料理の短冊が貼られ、焦るような幸せな迷い。今日の俺はいったい何を食べたいのか。冷静になれ俺。俺は腹が減って、のどが渇いているだけなのだ。なんだか孤独な男、井之頭さんが乗り移ったような気持になる。

さて、苦労の末、今日注文したのは肴を2品とお酒の「1時間利き酒し放題」。

人気メニューの無限ピーマン300円(税別)と新作のタケノコとワカメの煮物580円(税別)。
人気メニューの無限ピーマン300円(税別)と新作のタケノコとワカメの煮物580円(税別)。

タケノコとワカメの煮物は優しい出汁にサクッとした竹の子の歯ごたえがうれしい一品。そしてざっくりと切られたピーマン山盛りの無限ピーマン。これも出汁が効いていて、ピーマンの苦味がいいアクセントになっていて、その名のごとく無限ループに誘い込まれる。

そして喜びの1時間利き酒し放題1480円(税別)。“し放題”。酒場においてこれほどうれしい単語があるだろうか。しかも放題の対象は、このお店自慢の約50種類のお酒たち。1時間利き酒し放題で、どのお酒も一杯ずついただくことができる。延長したい場合は1人30分700円(税別)とのこと。複数人で頼む場合には、全員が注文する必要がある。

日本酒は常に50種類。週替わりで新しいお酒も入ってくる。
日本酒は常に50種類。週替わりで新しいお酒も入ってくる。

「お酒は定番のラインナップのほかに、常に新しいお酒を加えています。常連さんだとまず新着のお酒のメニューをチェックされて楽しまれています」と齋藤さん。

常にメニューは更新中!

それにしても、このメニューの多彩さ。「その日にある良いものを仕入れているので、うちはグランドメニューってものがないんです。(定番っぽいものも)毎日何品か変わっちゃっているので、メニューも毎日プリントアウトしてるんです」と齋藤さん。

つまり人気メニューでさえも新作に変わる可能性があるということ。食べたい! と思ったら迷わず頼むべし。次の機会にあるかはわからない、そんな旨い肴との一期一会の出会いもたまらない。

メニューは毎日最新のものをプリントアウトしている。
メニューは毎日最新のものをプリントアウトしている。

壁のメニュー以外にも、もちろん魚のメニューはいつも充実。本マグロ刺し、シマアジ刺し、イシダイ刺しなどの定番お刺し身から始まって、ホタルイカの天婦羅や明太子の大景海苔巻き天婦羅など、手の込んだ魚料理のメニューも用意されている。

「親父が沼津の旅館の息子だったので魚とか和食を出すのは自分にとっては自然でした。それに魚は日本酒に合うじゃないですか。日本酒って料理屋さんで普通に飲むとやっぱりすごく高いんですよね。それをどれだけリーズナブルに、高円寺の人たちが毎日飲めるような値段で出せるかを考えました。だからお店も大衆的なつくりにして、気軽に来られて、1人1品以上頼んでもらえばお通しもチャージもないような業態にしました」と齋藤さん。

利き酒し放題でも楽しめる日本酒の定番メニュー。
利き酒し放題でも楽しめる日本酒の定番メニュー。

魚が食べたい、腹が減ってる、おいしいツマミで酒を、大勢で、あるいは1人でちょっと、などなど、どんな望みも叶えてくれそうな懐の深ささえ感じてしまう。というか、壁のメニューを眺めているだけで2、3杯飲めてしまいそうな、どれもこれもがお酒好きの気持ちを誘うメニューがうれしい、区民のための酒場なのだった。

住所:東京都杉並区高円寺北2-21-10 丸善ビル1F/営業時間:17:00~24:00(フード23:00LO、ドリンク23:30LO)/定休日:不定/アクセス: JR中央本線高円寺駅から徒歩2分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=夏井誠