まずは、昨年大井町駅のそばにできたばかりの『PARK COFEE』へ。常連客と店員の気心が知れたやりとりをBGMに、本日のルートをぼんやり思い浮かべる。長丁場だし、『Sabai Sabai Thai(サバイサバイタイ)』のホリデーランチでしっかり腹ごしらえしなくちゃ。本場に倣った強い辛味にしびれたら『SCHAFT(シャフト)』のかき氷でクールダウンしよう。
この後、進路は西へ。光学通り、立会道路の順に横切ると、街の空気が少しずつ落ち着いていく。

高層ビル街と住宅地の味のあるグラデーション

住宅地に入ると巨大な狛犬に遭遇。下神明天祖神社では年3回ほど雅楽演奏会が開かれ、宮司の福岡三朗さんは中学校の雅楽部で熱心に指導も行う。「住民と街をつなげたい」との思いから始めた「しんめい縁日」は、老若男女が楽しみにする行事。雅楽部のOGでもある『Lily queue(リリー クゥ)』の店主・佐藤さんも出店し、テントの設営は現役生が手伝いに来るとか。

緩やかなつながりが街の営みを支える

昼下がりには 『金春(こんぱる)湯』に立ち寄り、ここまでの疲れを癒やす。休憩所には4代目の角屋文隆さん厳選のクラフトビールが揃う。ちなみに、大井町の『すえひろ湯』は2022年5月末で閉業する予定だったが、角屋さんが引き継ぎ2022年晩夏ごろに再オープンする。「近くのバーに飲みに行ったら、みんなが閉業を寂しがっていて。もったいないと思っていたところに私に話が来て、引き継ぐことを決めました」

百反通りを東へ進むと徐々に生活感が薄れ、大崎の高層建築群が現れる。駅をまたぎ目黒川まで歩くと、ビルの隙間を埋める植栽の緑がまぶしい。最後はせっかくだから大井町の横丁で飲みたいな、というわけで南下。酒飲みの猛者が集う空気に一瞬たじろいだが、入りやすそうな『OPʼs Bar(オーピーズバー)』を発見し、突入だ。よかった、マスターも常連のみなさんもいい人。乾杯、ぷはぁっ!

1 PARK COFFEE

みんなが寛(くつろ)げるコーヒーショップ

「香りのいいスペシャルティコーヒーをどうぞ」
「香りのいいスペシャルティコーヒーをどうぞ」

提供するのはコーヒーとお菓子、そして交流の場。コーヒーワークショップ、子育て中のママの会など毎月のイベントも人気だ。もちろん一人客にも居心地よく、鉄道車両の廃棄部分を使った席や、大井町駅周辺を描いた壁画が味わい深い。ハンドドリップ(アイス)600円、シフォンケーキ400円。

●10:00~18:00、無休。☎03-6754-4286

2 Sabai Sabai Thai(サバイサバイタイ)

胃袋と心を満たす満腹ランチ

「タイのお気に入りのレストランの味を再現しました」と店主。ホリデーランチ1738円は、メインを3つの中から選べる(写真はカオマンガイ)。春雨サラダとタイ風さつま揚げ、トムヤムクンの前菜3種盛りをつまみながら、ゆっくり昼酒もおすすめ。

●12:00~14:00LO・18:00~21:00LO、月・火休(水はランチ休)。☎03-3772-5137

3 SCHAFT

ふわふわの氷山でクールダウン

かき氷に使うのは、長時間かけて凍らせた不純物を含まない純氷。今年開店した専門店で、一年中食べられる。夏限定のキウイしゅわしゅわヨーグルトエスプーマかき氷1200円は、氷山の中にもカットフルーツが。「追いミルクソース」(無料)を頼めば味変も可。

●13:00~17:00、水・木・金休。(Instagram:@kakigorischaft)

砂糖を使わず果実だけで作ったフレッシュソースをかけて。
砂糖を使わず果実だけで作ったフレッシュソースをかけて。

4 下神明天祖神社

人と人をつなぐオープンな境内

コロナ以降、希薄化した人と人との縁を取り戻そうと始めた「しんめい縁日」。地元の商店や作家が出店し、境内に活気があふれる。今後は毎年5、10月に開催予定。小さいが斎田もあり、御朱印には定番の絵柄と、稲の成長に合わせて毎月デザインが変わる「成長印」がある(写真は5月バージョン)。境内自由。☎03-3782-7349

5 Lily queue

住宅地に潜(ひそ)む週2日の洋菓子店

約4.4坪の小さな店に並ぶのは、ケーキや焼き菓子だ。日替わりのマフィン400円は中に入れるものによって粉の配合を調整。バターの代わりに国産菜種油を使い、柔らかすぎず食べ応えのある食感に仕上げる。バスクチーズケーキ500円。

●金・土の12:00~18:30ごろ。(Instagram:@lily_queue_bakedgoods)

6 dolce bach(ドルチェ バッハ)

焙煎中の音や香りもたまらない

約40種類の生豆を揃え、注文を受けてから焙煎するコーヒー豆の専門店。店主の小川貢さんは、60歳を過ぎた頃に好きが高じて技術を学び、この道へ。浅め、深めなどの具合は好みに合わせてくれる。完成を待つ20~30分間、豆の焼ける音や香りを味わうのも一興。生豆240g(焙煎後は200g前後)1000円~。

●12:00~19:00、水休。☎03-6417-9895

「お好みのコーヒー豆を探すお手伝いをします」
「お好みのコーヒー豆を探すお手伝いをします」

7 金春湯

風呂上がりにはクラフトビール

1950年創業の地元に愛される銭湯。オリジナルタオルをはじめ風呂用品を販売していて、手ぶらで訪れても問題ない。グッズはTシャツ、トレーナーもあるので着替えも調達できる。マニアがうなるクラフトビール750円のラインアップは週ごとに入れ替え。

●入浴料480円。15:30~最終入場23:30(日は10:00~)、火休。☎03-3492-4150

「サウナもあります!」1回600円(入浴料と別)。
「サウナもあります!」1回600円(入浴料と別)。
2022年夏、『すえひろ湯』のリニューアルもプロデュース
2022年夏、『すえひろ湯』のリニューアルもプロデュース

8 光村グラフィック・ギャラリー

老舗の企業が芸術を身近にする

創業120年を超える光村印刷。美術印刷を得意とし、「つくり、つたえ、のこす。」をコンセプトに、縁のあるアーティストや注目作家を紹介するギャラリーを運営。写真は「今子青佳書道展ー筒井康隆『残像に口紅を』ー」(現在は終了)。

●開館時間、休館日は展覧会により異なる(詳細はHPを確認)。入場無料。☎03-3492-8689

9 OP's Bar(オーピーズバー)

タップが見えるカウンターが特等席

品質管理を徹底し、熟練の注ぎ手が入れた一杯は、「日本一おいしいアサヒスーパードライ」を自負。泡がきめ細かくスムーズに飲め、キリッとした苦味のあとに華やかな香りが舞う。罇替わりの国産クラフトビールを含めた全6種を用意。アサヒスーパードライ680円、自家製ソーセージ640円。

●16:00~22:00、無休。☎03-6433-0161

「設備や道具を清潔に保つこともおいしく入れるひけつです」
「設備や道具を清潔に保つこともおいしく入れるひけつです」

取材・文=信藤舞子 撮影=丸毛 透
『散歩の達人』2022年7月号より