食べ歩きの聖地、砂町銀座商店街

江東区北砂にある砂町銀座商店街は最寄りの駅がなく、徒歩かバスを利用しなければならない。そのため大手チェーン店よりも地元密着型の個人商店が多く残っており、ほかの商店街にはない魅力が詰まっている。

各店で個性が際立つお惣菜が販売されており、おでん、焼き鳥、メンチカツ、もつ煮などバラエティに富んだ味を楽しむことができる。食べ歩きの聖地と呼べるほど種類が多く、すべてのお店を回るのは至難の業だ。ドラマ版「孤独のグルメ」(シーズン2、第9話)でも登場している。

『増英蒲鉾店』のできたておでん

最初に紹介するのは『増英蒲鉾店』だ。昭和45年(1970)の創業から続く砂地銀座を代表するおでん種専門店で、暖かい時期でも行列が絶えない。

自宅調理用のおでん種や揚げ物のお惣菜が充実しているが、今回は店頭で調理しているできたておでんを購入することにした。

最初にその場で食べるかお持ち帰りかを告げて、食べたいおでん種の名前を伝えよう。鍋はとても熱いので、指差しオーダーは厳禁だ。あっという間に暗算して合計金額を伝えてくれる。

おでん汁の出汁は鰹節、昆布のほかに煮干しも加えている。汁は継ぎ足しとなるが、長いお休みの際は新しいものに取り替える。

お持ち帰り用に購入するとポリ袋と紙袋に詰めてくれるが、手提げ袋は有料となる。からしはサービスとなるのでぜひつけてもらおう。じっくり煮てあるのですべてのおでん種が褐色に染まり、食欲を掻き立てられる。

どのおでん種もおすすめだが、中華揚は必ず購入しよう。大判の揚げ蒲鉾のなかにもやしや人参など野菜がたくさん入っており、ぴりりと辛い唐辛子がアクセントとなっている。おでん汁が染み込んでふわふわになったすり身の食感を楽しむのもいいが、揚げたてのものがあればぜひ店頭で味わってもらいたい。

「孤独のグルメ」ではこの中華揚としゅうまい巻が登場している。劇中で売り切れになっていた魚のすじはサメのすじ肉を使用したおでん種で、『増英蒲鉾店』では手づくりしている。こりこりとした軟骨とふわりとしたすり身の食感が心地良い。

大根は分厚く切られているが、中までしっかり味が染みている。板付蒲鉾や手づくりのはんぺん、大振りの昆布など、『増英蒲鉾店』でしか味わえない種が多い。

詳細は「増英蒲鉾店のできたておでん」という記事をご覧いただきたい。

『あさり屋さん』の浅利ごはん

次に紹介するのがあさりのお惣菜が揃う『あさり屋さん』だ。漁師である旦那さんが獲ってきたアサリを行商していたおかみさんが、平成17年(2005)に創業した。

佃煮やおいなりさんなど、アサリをふんだんに使ったお惣菜をたくさん揃えているが、一番人気は浅利めしだ。最近ではあさりコロッケも人気がある。

おかみさんはすこしお年を召されたが、まだまだ元気に接客している。人懐っこい性格でいつもお会いするのを楽しみにしているのだが、お客さんが多いのであまりお話の時間が取れないのが悩ましいところだ。

浅利めしは、アサリやシジミなどの貝でとった出汁と一緒に炊いたごはんがとても美味しい。たけのこやワカメのほか、アサリが大量に入っており非常に贅沢な逸品だ。この浅利ごはんもかぼちゃの煮物とともに「孤独のグルメ」に登場している。

『竹沢商店』の焼き鳥ともつ煮込み

砂町銀座にはいくつか焼き鳥屋さんがあるが、砂町銀座を東に進んだ丸八通りの近くにある『竹沢商店』はとくにおすすめしたい。こちらも連日行列が絶えないお店だ。

『竹沢商店』は大田区雑色の本店をはじめ、梅屋敷、子安、新丸子にも店舗がある。焼き鳥のほかにもつ煮込み、ホルモン焼きも販売しており、焼き鳥はその場で味わうことができる。

焼き鳥はオーダーするとその場で焼いてくれる。もうもうと立ち込める煙に紛れて、たれの焦げる美味しそうな香りが辺りに漂う。

とりねぎや手羽先、レバーやハツ、豚バラなど多くの種類を取り扱っている。どれも大振りで満足感があり、うまみが凝縮している。

もつ煮込みは豚と牛のもつを煮込んでおり、とろけるような肉の甘みがたまらない。お持ち帰り専用となっているので自宅で楽しむのもいいが、保温ジャーなどを持参して近くの荒川土手で味わってもいいだろう。こちらのもつ煮込みも「孤独のグルメ」で登場している。また、今回は購入しなかったがホルモン焼きもおすすめだ。

『梅むら』の塩うどん

『梅むら』は昭和25年(1950)から営業を続ける和菓子屋さんだ。季節の和菓子、いなり寿司やおにぎりなどの軽食が豊富に揃う。

なかでも透明のスープが特徴の塩うどんが人気で、この味で育った地元民も多いという。店内で味わえるが、お持ち帰りもできる。

お持ち帰り用は1人前となり、うどんとスープのほかに長ネギと天かすが付属する。訪れたときも地元の常連客のほか、観光客たちが次々と塩うどんを手にしていた。

たっぷり沸かしたお湯にうどんを入れて10分少々、流水で締めてから温め直し、別鍋で温めたつゆに合わせれば完成だ。

透明のつゆは厚めのものを厳選した日高昆布と熊本県牛深産を含めた数種類の煮干し、徳島県鳴門産の塩、上白糖を加えたこだわりの逸品。かぎりなく清らかな喉ごしながら、複雑なうまみをしっかりと感じる。

店舗では和菓子屋ならではのこだわりの餅が入った塩うどんを楽しめるので、お店で味わいつつ、自宅で再度楽しむといいだろう。また、ネット通販も行っている。

『手づくりの店 さかい』のまぐろメンチと餃子

『手づくりの店 さかい』も「孤独のグルメ」に登場した一軒だ。焼売と餃子の専門店だが、お弁当や揚げ物にも定評がある。

店内で仕込みや調理を行っており、できたてのものが店頭に並んでいる。こちらのおかみさんも人懐っこく、ちょっとした会話のやり取りが楽しい。

メンチカツやアジフライなど魅力的な品々が並んでいるが、ドラマに登場したのはまぐろメンチだ。

成人男性の手のひらくらいある大きなメンチで、マグロのミンチがぎっしりと詰まっている。衣はさくさくしていて、自宅に持ち帰っても軽やかな食感を楽しめる。ふんわりジューシーなマグロは風味がよく、うまみがありながらもあっさりしているので、あっという間に完食してしまう。

餃子は皮が肉厚でもっちりしており、餡の芳醇な味わいも素晴らしい。もうひとつの看板商品であるジャンボ焼売も味わってみたいところだ。

『松ばや』の煮卵

昭和37年(1962)創業の『松ばや』はきんぴらやイカ大根などのお惣菜を20種類以上揃えている。

すべて手づくりとなっており、家庭的な味わいが楽しめる。このお店だけで夕飯の献立がまかなえてしまうほど種類が豊富だ。

店頭でどれにしようか迷ってしまうが、それも楽しみのひとつとなる。お店の方に聞けば親切におすすめを教えてくれるので、初めて訪れても安心して買い物ができる。

煮卵は『松ばや』の人気商品で、週末になると1000個を仕込むという。醤油ベースのたれは20年以上にわたる継ぎ足しのもので、2時間ほど煮込むという。1袋4個入りの販売だが、希望すれば1個単位でも購入できる。

褐色に染まり、つるんとした表面が美しく、丁寧に調理されたことがよくわかる。味付けはあっさりとしていてフレッシュな玉子の食感を楽しめるが、じんわりと奥深いうまみが一緒にやってくる。単体ではもちろん、ほかの料理と合わせても美味しいだろう。

『染谷食品』のうま煮

最後は『染谷食品』を紹介しよう。松ばやと同じくお惣菜のお店で、こちらも多彩な商品を取り揃えている。

『染谷食品』は昭和25年(1950)の創業で、漬物は60年以上前のぬか床を使用しているなど歴史は深い。店頭だけでなく、奥にもたくさんお惣菜が並んでいる。

定番の厚揚げ肉詰や南蛮こんにゃくのほか、新じゃがいもやきゃらぶきなど旬の食材を使用したお惣菜などが揃い、訪れるたびに新たな味を楽しめる。

今回はたけのこをふんだんに使ったうま煮を選んでみた。柔らかく煮てあるが、野菜それぞれの食感がきちんと残り、たっぷりうまみを含んでいる。味付けは上品で、口に運ぶごとに気持ちがふんわり和らいでくる。

砂町銀座は今回紹介した以外にも魅力的なお惣菜にあふれている。できたてのものをその場で味わうのもいいが、自宅に持ち帰ると多くの種類を楽しめる。寒暖問わずどの季節でも魅力的な商品を取り揃えているので、散歩がてらぜひ訪れてみてほしい。

『増英蒲鉾店』の基本情報

『増英蒲鉾店』
〒136-0073 東京都江東区北砂4-9-9
03-3645-1802
定休日:月曜(10日の場合は翌火曜)
営業時間:11:00~18:00

『あさり屋さん』の基本情報

『あさり屋さん』
〒136-0073 東京都江東区北砂4-25-5
090-3545-8395
定休日:なし
営業時間:11:00~19:00

『竹沢商店』の基本情報

『竹沢商店』
〒136-0073 東京都江東区北砂4-40-11
03-5634-3248
定休日:月曜
営業時間:11:00~

『梅むら』の基本情報

『梅むら』
〒136-0073 東京都江東区北砂3-30-9
03-3644-6749
定休日:不定休
営業時間:10:30~15:00(店内飲食)、7:00~16:00(店頭販売)

『手づくりの店 さかい』の基本情報

『手づくりの店 さかい』
〒136-0073 東京都江東区北砂5-1-33
03-3646-5670
定休日:不定休
営業時間:10:30~19:00

『手づくりの店 さかい』のTwitter, Instagram, Facebook

『松ばや』の基本情報

『松ばや』
〒136-0073 東京都江東区北砂4-7-19
03-3646-2551
定休日:不定休
営業時間:11:00~20:00

『染谷食品』の基本情報

『染谷食品』
〒136-0073 東京都江東区北砂4-18-15
03-3644-8478
定休日:金曜
営業時間:9:00~19:00

取材・文・撮影=東京おでんだね