人気小説家の燃え殻さん(右)と爪切男さんで熱いキン肉マントーク!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!! 

希代のストーリーテラーのふたりが6・7月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

* * *

今回の「先月の肉トーク」テーマ(2ヵ月分)
第349話 タッグ屋の原点!!の巻(6月7日分)

第350話 祝福を受けるのは...!?の巻(6月14日分)
第351話 超神を見限った男!!の巻(6月21日分)
第352話 バベルの塔への資格!!の巻(7月5日分)
第353話 超人リモート会議!!の巻(7月12日分)
第354話 悪魔将軍の箴言!!の巻(7月19日分)

あらすじ
イタリア・コロッセオで繰り広げられた、超人タッグ・ゴッドセレクテッド(スーパー・フェニックス&ビッグボディ)VS超神タッグ・マイティハーキュリーズ(イデアマン&ザ・ノトーリアス)の一戦も終わり、超神側も超人たちの想定以上の実力を感じ取る。一方、超人側のリーダー的存在、ザ・マンが次なるステージ・バベルの塔へ向かうよう提案。その場所へ向かえる8名の選出が行なわれた

●選ばれし8名に燃え殻、爪切男は?

燃え殻(以下、) バベルの塔に挑む8人の超人、割とあっさり決まったよね。

爪切男(以下、) ねえ。でも、ジェロニモがプリズマン、ロビンマスクがマンモスマン、アシュラマンがサタンクロスと、最初に闘った超人との関係のあるメンバーが選ばれていて、因縁っぽいところが。

 うん、いいよね。

爪 でもやっぱり、ジェロニモが見劣りするから......。

 プロレス的に言うと?

 うん。このメンツで、普通の団体戦だったら、ジェロニモが先鋒ですけど。本当のところは、もっと引き延ばしてほしいなと思いますね、出すのを。最後はちょっと荷が重すぎるから、真ん中あたりとか──。

 菊地毅()的な(笑)。

菊地毅...全日本プロレスで、ジャンボ鶴田と天龍源一郎や超世代軍(のちの四天王)が抗争を繰り広げていた頃、超世代軍メンバーとして鶴田に対抗。壮絶なやられっぷりで、多くの選手の魅力を引き出した

 最初は誰なんだろう?

 ウォーズマンかなあ......っていうか、『キン肉マン』のキャラクターって、マンモスマン以外はみんな、死まで含めた壮絶な負けシーンがあったじゃない? 特に、ウォーズマンの負けたコマ、すっごい覚えてる。壮絶にぶっ壊されたやつ。

 タッグのときも、素顔を晒(さら)されて──。

 そうそう。やられっぷりが印象的な超人第1位が、ウォーズマン。逆に、勝ってるときは「えっ、勝つんだ?」って思うぐらい意外性が出ちゃうんですよ。負けが似合う、強いのに。だから、8人にウォーズマンが入ってる時点で、ちょっとザワッとする。

 あと、このメンツで負けを予感させるのは、サンシャインとウォーズマンですね。

 アシュラマンも、ズタボロになって負ける、っていうイメージがある......。

爪 アシュラマン、今回は敵(かたき)討ちですからね、師匠の。あと、バッファローマンもこれまで何かの犠牲になってきた印象が強い。今回は日の目を見てほしい。しかし、これでジェロニモが負けたら、ゆでたまご先生すごいな、と思いますけどね(笑)。なんでわざわざ、ちょっとだけフックアップして、地に落とすのか、っていう。

 あと、今回選ばれた8人と敵役が、なんらかの因縁があるといいよね。最近見た某洋画も、「なんでそいつら?」みたいな敵がいっぱい集まっていて。それだと、味方側が強くても感情移入できない。だから、この8人と何かしらの縁がある8体の神だと、うれしいよね。

 そうそう、テーマがね。

 うん、闘いにテーマが欲しい。最近のプロレス団体も、迷走しているところ、あるじゃない? テーマをうまいこと設けられなくなって。

 ほんとそうですよね。

 例えば超人タッグのときも、ネプチューンマンのマスク狩り、っていうテーマ一発で、最後まで持っていけたじゃない? ああいう闘う意義があると、盛り上がるんだよね。キン肉マンのマスクが、リンゴの皮むきのようにぐるぐるはがされるっていう──。

 はい、はい。

 あのとき俺、初めて早くジャンプを買いに行ったから。日曜の夜中の12時に、コンビニで、まだヒモで縛ってあるジャンプを「すいません、これ開けてください!」って。あのとき燃えたのは、テーマがあったからだよね。

 そう、遺恨じゃなくても。

 あと、前に何度か爪さんと、大日本プロレスを見に行ったじゃない?

 行きましたね。

 ハシゴを奪い合ったり、ハシゴで殴ったりするんだけど......前の『キン肉マン』のときって、紙が燃えたらロビンが足から消えていく、ってあったじゃないですか。

 ああ、頭上に吊るされた、超人予言書が燃えると。

 で、キン肉マンとザ・サムライが、ロビンマスクの両足の代わりになって、タワーブリッジを完成させる、みたいな。今考えると「何それ」っていうルールだけど、あれを読んでいる間は「やばい、消える!」って、入り込めた。

 確かに、あれはおもしろいデスマッチでした。

 「今回、このルールでデスマッチをやります」というのがあると、緊張感が生まれる。敵と味方のパワーに差があっても、それをうまく使えば闘える。大日本プロレスのハシゴもそうで、選手の格に差があっても、ハシゴをうまく使ったら勝てる可能性がある、だから見ていて楽しい。

 そうですね、確かに。

 それから、正義超人側の技は、読者全員知ってるから。「あの技まだ出てないな。あ、出た」みたいな感じになりかねない。そうじゃない、意外な闘いもあるといいよね。

 そのためには、いっそのこと1試合ずつ違うルールにするとか。

 ああ、ランバージャックデスマッチ(リングから落ちたらすぐ中に戻されるデスマッチ)みたいな、いろんな創意工夫を1試合ずつやる、とか。そういう変形試合のおもしろさを生かすのが、一番いいと思う。

●超神に〝情〟が湧くためには?

 そういう、特殊なルールの試合で言うと......例えば燃え殻さんが作家の世界で、村上春樹に勝つにはどうしたらいいんですか?

 はははは。ありえないよ!

 俺たちが、どうしても勝てないような人に、「このテーマだったら俺は勝てる」とか。例えば俺なら、出会い系とかテレクラのエッセイなら、村上春樹に負けない(笑)。

 なるほど。

 でも、西村賢太には勝てる気がしない(笑)。あと、俺が思ったのは、もしかして神様って、何か理由があって、ガチの本気が出せないのかな、という。で、最終的な決戦のときに「ここからは本気のガチだ」って、強くなるとか。

燃 ああ、ああ。

 このままいったら、超人側はほとんど負けて残らない、ということになるのかな。負ける=死、だろうしなあ。

 そうだよねえ。

 じゃあジェロニモは、がんばるけど死ぬかもしれないですね。

 ジェロニモは、死ぬのが似合うといえば、似合うしね。

 で、本当の最後の闘いは、さすがにキン肉マンでしょうしね。

 それはそうだね。

 ロビンマスクは勝たないとですね、復活したし。で、ウォーズマンとアシュラマンはーー。

 ああ、負けそう。

 アシュラマンは、せめて引き分け、サタンクロスの敵は討たないとだから。もしくは、アシュラマンがやられるときに、さらにジェロニモに何かを託す、とかね......ジェロニモの立場、大事だなと思いますね。出てくる順番とか。あと、キン肉マンに出番があるとしたら、初っぱなですよね。初っぱなに出て、最後に誰かもう一回闘わないといけない、ってなって、もう一回出てくれるのが、一番いい形だと思いますね。

 うん、そうだね。

 でも、ファンが喜ぶのは誰か、って考えると、ロビンが1試合目でもいいのか。

 ロビンが動いてるとこ、だいぶ見てないもんね。

爪 でも、こうしていろいろ考えても、『キン肉マン』、やっぱりおもしろいから、予想どおりの展開になっても、満足するんですけどね。それが『キン肉マン』のすごいところで。つまんないと思わない。

 そうだね。あと、描き方として、敵のほうに情が湧く感じがあるといいよね。今のところ、神様の側にそういう部分はないじゃない?

 今は正直ないですね。

 昔の『キン肉マン』って、敵の側にも事情があった。それで情が湧いたり、共感したりして、おもしろくなる。

 うん、敵側として登場した頃のバッファローマンやネプチューンマンもそうだった。

 「敵にも事情がある」「悪魔超人にも友情がある」みたいな。それがないと、強さがどんどんインフレ化していく、よくあるバトルマンガみたいになっちゃうので。

 ほんと、バベルの塔は、神様チーム次第ですね。超人チームはオールスターで、キャラ立ってるし。

 じゃないと、新日対ソ連軍みたいになっちゃう。

 はははは! 敵がただ強いだけっていう。でも、敵キャラに感情移入できるっていうのだと、『SLAM DUNK』とか、うまかったですよね。全国大会の1回戦の敵チーム(大阪・豊玉高校)、ただの試合かと思ったら、向こうにも事情があって。

 新日本の内藤哲也もうまかったよね。G1で勝って、でも人気が出なくて、メキシコへ行って、向こうでチームをつくって、帰ってきて......そこはもう、本当に不人気だったことも物語に取り入れていっちゃう新日の貪欲さというか。

 だから、これから、こっちが「生き残ってくれ」って思えるぐらいの敵、神様を出せるかどうかですね。

 ほんとそうだね。

 でも、不思議な8人ですよね、俺らが子供の頃に読んでいた『キン肉マン』からしたら。この8人で天に昇ろうとしとるっていうのは。

 そうだよね。

 現状から判断するだけだけど、超人たちはバベルの塔に昇りたくて昇るわけじゃない。でも、このままだと世界がダメになるから、行くしかない。で、神側は、完璧な神になるために、天に昇ろうとする。

 超人・超神のそれぞれ8名の事情が、どう絡み合っていくかも楽しみですね。

●燃え殻(MOEGARA
1973年生まれ、神奈川県出身。テレビ美術制作会社に勤めながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、2016年、90年代の若者を描いた『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)で小説家デビュー。本年、同作が森山未來主演でNetflixより全世界同時配信予定。最新著『これはただの夏』(新潮社)も好評発売中

●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。昨年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。本年2月より『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、3月『働きアリに花束を』(扶桑社)、4月『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)、の3ヵ月連続のエッセイ集刊行でも話題となっている

爪切男さん、燃え殻さんの最新著はこちら!

●『キン肉マン』第75巻、好評発売中! 

●9月13日(月)発売『週刊プレイボーイ』39・40号には、「爪切男×燃え殻の先月の肉トーク!!」の最新コラムを掲載! そして今回は、ゆでたまご嶋田先生がついに登場!!