『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス16巻を熱く語る『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス16巻を熱く語る

名勝負が続いた五重のリングのさまざまな超人たちの闘いを経て、この巻は久々に主人公であるキン肉マンの闘いからスタート。

いよいよシリーズはファイナルへと突き進んでいきます!
(この記事は、2022年12月12日発売『週刊プレイボーイ』52号に掲載されました)

●『キン肉マン』16巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5
  • バッファローマン戦と〝真逆〟の構図に注目

前巻ラストから続くキン肉マンvsアシュラマン戦の舞台は、日本アルプス山間部に設置された野外特設リング。目まぐるしく変わる天気に対応しながらのウェザー・デスマッチという仕掛けもさることながら、それ以上に読者の興味が尽きないのはやはりキン肉マンとアシュラマン、どちらの必殺技=バスターが強いのかという待望のバスター合戦の行方でしょう。

これまでウォーズマン、バッファローマンなど、並み居るボスキャラを撃沈してきたキン肉バスターの威力は誰もが認めるところですが、それを6本の腕で極める阿修羅バスターはどう見ても上位互換技。しかし、ここがまた面白い。

なぜなら、前回のバッファローマン戦では、キン肉バスターという最強必殺技をバッファローマンがどう攻略していくかというのが見どころでした。その構図が、今度は逆なんですよ。

阿修羅バスターというどう見てもキン肉バスターより勝る技を、キン肉マンがどう攻略していくのか。すでにやった69にひっくり返すのも、逆噴射も、もう使えません。また新たな攻略法を提示しない限り、アシュラマンには勝てないぞというこの難問!

そもそも、これを〝難問〟たらしめていること自体が僕は『キン肉マン』の面白さの秘訣だと思ってまして、強力な光線をぶっ放すとか、とりあえずぶった切るとかの力技じゃ、もはや誰も納得しません。肉体と肉体を組み合わせた〝パズル〟を解いて、みんなが納得する答えを提示するのが『キン肉マン』であり、ゆでたまご先生だと、もはやファンは思ってる()。だからハラハラするんですよね。

そしてここにも、ゆでたまご先生は素晴らしい答えを出してこられました。今回の正解は「首を抜く」です。なんという明快かつ痛快な答えでしょう。感動です!

しかし、ここでまた新たな難問が。首を抜いて脱出できるならそれはキン肉バスターでも同じこと!? つまり、このパズルを解いたことで、同時にキン肉バスターも使えない技になってしまったわけです。

思えばこれまで読者は「誰があの最強技キン肉バスターを破るんだ?」という議論に夢中だったわけで、それをとうとうアシュラマンがやるんじゃないか、そう考えていた人も少なくなかったはずです。しかし最後、キン肉バスターを破ったのは、ほかならぬキン肉マン自身だったというこの結末。なんという悲劇!

あらためて、こんなよく練られた脚本を週刊連載のペースで作っていらっしゃったというのが、いまだに信じられないです。

●どうやれば倒せるのかさえもわからない......

そうなると、新必殺技開発という新たなテーマが誕生します。そして、生まれた第二の超必殺技・キン肉ドライバー。〝難問が発生し解決し続ける〟というこの無限ループが読者を引きつけてやみません。

そんな新必殺技を引っ提げて、ついにシリーズファイナル、悪魔将軍との大決戦に挑んでいくわけですが、その前に語らねばならないのがバッファローマンの頑張りです。

キン肉マンがキン肉ドライバーを完成させるまでの時間稼ぎを自ら買って出て、リング上で悪魔将軍を足止めするバッファローマン。実質、これが将軍のデビュー戦にもなるわけですが、やはり前シリーズで活躍したボスが新シリーズボスに向かっていくというのは、燃えないわけがないですよね。

思い返せば、このバッファローマン自身もまた、前のシリーズボスであるウォーズマンに挑まれ跳ね返した実績を持つわけですが、そのときはまだ実力差は拮抗してました。ウォーズマン側にも、もしかしたら勝てるかもしれないという希望が見えていた。

しかし今回は、何も希望が見えません。まさに、絶望的な戦力差。ゆでたまご先生だって、バッファローマンがどれだけ人気の超人か知ってたはずですよね。なのにここまでやるか?ってくらい忖度なしで、あのバッファローマンがコテンパンのボコボコに......。シリーズラストの大一番を前に、もはや恒例の先生の非情さも絶好調です。

ウォーズマンを破ったバッファローマンがこうも簡単に持ち上げられ、敗戦する。少年漫画とはこの繰り返しなのだウォーズマンを破ったバッファローマンがこうも簡単に持ち上げられ、敗戦する。少年漫画とはこの繰り返しなのだ

そして、そんなバッファローマンの思いも背負いつつ、悪魔将軍との決戦リングに上がるキン肉マン。悲壮感しかないこの流れの中にあって、うれしい救いがありました。モンゴルマンの再登場です。レフェリーという渋い役目ではありますが、この一服の清涼剤に心洗われた読者も多かったのではないでしょうか。

こうしてすべてのお膳立てが整って、いよいよゴング。ここから、かつてない恐怖がキン肉マンを次々と襲います。何せ相手は痛みを感じない。つかむと軟体に変化してすり抜ける。そもそも中身はがらんどうで肉体がない。

だからどんな技も効かないし倒しようがない!? ゲームでいえばこんなのチートキャラですよ、立ってるステージ自体が違いすぎる......。しかもその正体は、シリーズの最終獲得目標であるはずの黄金マスクだったという絶望に絶望を重ねるオチまでついて、この超ド級の難問発生をどう解決するんだキン肉マン!?......という答えは一切見えないまま、シリーズ決着の次巻へと続きます!

●『キン肉マン』4コマ

●こんな見どころにも注目!!


アシュラマンをキン肉マンが倒したことによって、奪われていたテリーマンの腕も返ってくるんですよね。それ自体はとても喜ばしいことなのですが、注目したいのはこのひとコマ。「キン肉マン、新しい技の練習台にはオレを使え!」というセリフはともかく「ズボ」ってすごくないですか? 腕って「ズボ」ってそうやってはめてくっつくの!?......って、子供の頃の僕はものすごく驚いたのが今なお忘れられません。とても『キン肉マン』らしい、愛すべきひとコマだと思います

※1月30日0時前後配信の本コラムより、『週プレNEWS』へ移籍します。変わらぬご愛顧宜しくお願い致します。

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!

●1月30日(月)0時より『キン肉マン』405話配信、同日発売『週刊プレイボーイ』7号にも掲載!