鋭い乳歯で本気がみするミニチュアダックスを迎え 育犬放棄の夢でうなされるほどに

かわいい! こんなに小さいのにかむ力はハンパない!(お母さん提供)

 出会いは突然だった。心の準備がないまま始まったミニチュアダックスフントとの暮らし。かみ、ほえ、暴れるパワフルな子犬に困り果て、アドバイスされたことは全部やった。でも……。気づけば夢でうなされるほどの育犬ノイローゼに。  

 UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の激アツ店長こと高橋信行さんは叫ぶ。

「いまだにペットショップはこんな売り方をしてる!? でも、出会いには必ず意味がある」

(末尾に写真特集があります)

手をかまれたけどかわいくて

 「私が飼わなかったら、この子はどうなっちゃうんだろう……」

 2年前の冬。仕事の都合で夫が東京から離れ、二人から一人暮らしに。さらにコロナ禍で在宅ワークになったこともあり、インテリアを見直そうと家具店に足を運んだ。その近くにあったスーパーか雑貨店のようなショップにふらりと立ち寄ると、そこはペットショップだった。

「小さいころは一緒に暮らしていたこともあり、犬は大好き。盲導犬のパピーウォーカーをやってみたい、保護犬をお迎えしたいといった思いはずっと抱いていました。ただ、仕事もあり、夫ともリタイアしてからだねと話していました」

 ペットショップではほとんどの子犬がこちらに尻尾を振っていたが、一匹だけそっぽを向いているミニチュアダックスフントが。「なんだか気になってしまって」。そんなお母さんの気持ちを察した店員が近づいてきて、怒濤の営業トークが始まった。

「いろんな理由を言って断ろうとしても、『小型犬なら一人でも楽に育てられます』『1日20時間ぐらい寝てるから手はかかりませんよ』と、次から次へとたたみかけるように話を進めていかれました」

 のちにこのエピソードを聞いた高橋店長は「いまだにこんな接客をしていることに疑問を感じます。売れさえすればいい、というのはあまりにも無責任すぎる」と憤り、しかし、多くの飼い主と犬を見てきた経験からこう語る。「犬に罪はありません。出会いの形がどうであれ、出会ったことには必ず意味がある。僕はそう思っています」

 強引な店員に勧められて抱っこすると、ダックスの子犬はバタバタと暴れ、お母さんの手を激しくかみまくった。戸惑いながらもお母さんの中にある気持ちが芽生える。それが冒頭の一文だ。

「こんなにかむ子犬、きっと売れ残っちゃう。店員さんもそれを感じて強引なまでに勧めてきたのかな、って……」

 手をかんできたことに驚きはしたものの、そのダックスの子犬は元気いっぱいでとびきりかわいかった。お母さんは一大決心する。

ペットショップでも元気とパワーが弾けていた(お母さん提供)

できることをやってみる

 2週間後、「マリン」と名付けたダックスの女の子との暮らしが始まった。マリンちゃんはまったく落ち着きがなく、家の中をものすごい勢いで爆走した。「動画も撮れないほどのスピードでした」とお母さんは苦笑い。

 ケージに入れるとほえまくる。ダックスは体が小さいわりに吠え声が太く大きい。集合住宅で暮らしているため、「このままだと苦情が来るかもとヒヤヒヤ。慌てて防音シートのようなものをケージの周りに張りめぐらせました」。

 子犬育ての本やインターネットでは、ほえに対しては「無視する」がセオリー。お母さんも無視し、同じ部屋にいないようにするなどして諦めてくれるのを待ったが、マリンちゃんはケージに入れると一晩中ほえ続けた。さらにお母さんを悩ませたのが、かみ。お迎え前からわかってはいたものの、乳歯の鋭い犬歯で本気でかまれると泣きたいほど痛く、お母さんの手は傷だらけになった。

引っ張りっこ遊びも激しい! お母さんカスタマイズのおもちゃと激闘(お母さん提供)

家族も近寄らなくなった

 ペットショップが主催しているパピーパーティーに参加してみた。「子犬が怖がるもの」として、タイルの上を歩く練習をしたり、サングラスと杖をついた人が登場したり。「マリンは床材がなんだろうと気にせずスタスタ歩くし、サングラスの人もへっちゃら。困っているのはそういうことじゃないんだけど……と戸惑いました」とお母さん。

 子犬同士のプレータイムでは、遊びたい気持ちが爆発し、ほかの子犬を追っかけまわしてしまうマリンちゃん。みんなが怖がって逃げ回ったため、抱っこするように言われ、結局遊ぶことができなかった。

 一番悩んでいたかみについて相談すると、飼い主のひざの上でひっくり返しておなかを触らせる、いわゆる服従訓練と、引っ張りっこ遊びをするように、と指導された。

「アドバイスされたことはすべてやりました。でも、それでマリンのかみがおさまることはなかった」

 マリンちゃんは、動物病院では獣医師にも看護師にもかみついた。実家に連れていっても誰かれ構わずかみまくるため、家族は「怖くて触れない」と遠巻きに。一人きりで行き詰まってしまった子犬育てに、お母さんはどんどん精神的に追い込まれていった。

「『育犬放棄』する夢を見て、うなされました。マリンが恐竜みたいに巨大化して襲ってくる夢も……。今なら笑えますが、当時は笑うことを忘れるほど苦しかった。あっという間に過ぎていく貴重なパピー時期のマリンとの暮らしを楽しみたかったのに、まったく楽しめませんでした」

「おりゃー! ガブガブ!」。激しいかみにお母さんの手も心もズタズタに(お母さん提供)

「かみ犬」でネットを検索し、UGの存在を知ったのはそんなときだった。まずは一人でUGを訪れたお母さん。対応したスタッフに事情を説明すると「引っ張りっこはやめた方がいいですね」。前回のミニチュアシュナウザーのマフィンくんの物語で店長が解説したように、強い子犬の場合、引っ張りっこをすることでかえって興奮させ逆効果になることもあるからだ。

 お母さんは「少し落ち込んでしまった」と振り返る。「あのころの私にできることはすべてやっていたつもりでした。まさかそれが裏目に出ていたなんて……」。しかし、落ち込んでばかりもいられない。スタッフからカウンセリングを勧められ、予約をしてUGを後にした。それが、マリンちゃんにとって最高に楽しく大好きな場所になるUGとの物語の始まりだった。

 後編へつづく(2月27日公開予定)

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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