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阪神・北條史也は「ポスト鳥谷」争いを勝ち抜けるか

2019 10/28 06:00カワサキマサシ
阪神・北條史也ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

2016年にブレイクの兆し見せるも…

今年のドラフトで阪神は1位・西純矢(投手/創志学園高)、2位・井上広大(外野手/履正社高)と、上位2人は高校生の投手と野手を指名した。これは2012年の1位・藤浪晋太郎(投手/大阪桐蔭高)、2位・北條史也(内野手/光星学院高)以来だった。

今季の藤浪は未勝利に終わり、この秋は再生に取り組んでいる。一方の北條もプロ4年目の2016年に122試合に出場してレギュラーの座をつかんだかに思えたが、以後は打撃不振とケガなどで出場機会を減らしており、今季も82試合の出場(打率.247)にとどまった。

光星学院高時代、準優勝した2012年の夏の甲子園で清原和博の記録にあと1本と迫る1大会4本塁打を放ち、清原と並んで最多タイの甲子園通算29打点をマーク。輝かしい実績を残してドラフト2位の高評価で入団したことを考えると、プロで殻を破り切れていない印象が強い。

ボール先行時は強いが、課題は「右打ち」

北條の今季のカウント別の打率を見ると、初球にあたる0-0(.538)、ボール先行の1-0(.286)、2-0(.875)、そして1-1(.389)の状況で、高打率を残している。

投手は初球はともかく、ボールが先行するとストライクをほしがるもの。カウント1-1からの次の球も、ボールになるのとストライクになるのでは大きく展開が変わるためストライクをとりたい。これらの場面ではストライクをとれる球種を選択しがちで、打者にとっては狙い球が絞りやすくなり、ヒットにできる確率が上がる。北條のカウント2-0での打率.875などは、その際たるものだろう。

安打の方向では、引っ張ったレフト方向へは.317であるのに対し、センター方向は.180、ライト方向へは.231と、極端に偏っている。

このことから北條は、相手投手の持ち球の中から狙う球種を絞って打ちにいく“ヤマ張りバッター”であると推測できる。ヤマが当たれば思い切って引っ張り、安打にする力は持っているが、2ストライクに追い込まれると打率.100~.222と極端に数字が下降している点はいただけない。

同タイプのソフトバンク・今宮は右打ち得意

ストレートに的を絞りながら、変化球にも対応できる打者はそう多くない。大多数の打者は確信がない限り、2ストライク後はストレートにタイミングを合わせながら、変化球にも対応する両面待ちでいる。おそらくは北條も、そうしようとしているに違いない。

だが、結果が出ていないということは、その対応力に課題があるということになる。2ストライク後に外に逃げる変化球を拾って、右方向に弾き返すなど、打席内での対応力が向上すれば、ひと皮剥けるのではないだろうか。

前記は欠点の修正だが、ヤマが当たれば高確率で打てる長所も伸ばすべき。そのためには積極的に相手バッテリーの配球傾向を研究し、投手のクセを探るなどして、読みの精度を上げることが必要だ。

同じ右打ちのショート、ソフトバンクの今宮健太と比較すると、違いが浮き彫りになる。日本一に輝いた2019年、今宮は106試合に出場して打率.256、14本塁打、 41打点の成績で、打率は北條とそれほど変わらない。ただ、レフト方向への打率が.255なのに対し、ライト方向への打率は.304をマーク。コースに逆らわない打撃をしていることが分かる。

チーム内のライバルは同級生の木浪聖也

今季の阪神の遊撃のポジションには、計6選手がついた。最多出場は新人の木浪聖也の98試合、それに続くのが北條の46試合。以下、植田海の19試合、鳥谷敬の14試合、糸原健斗の10試合、ソラーテの3試合となっており、来季も北條と木浪の同級生がポジション争いの中心になるだろう。

木浪は今季、中盤に7試合連続、終盤には13試合連続安打を放って打率.262、4本塁打32打点とルーキーとしてはインパクトのある成績を残した。一方の北條は打率.247、5本塁打、20打点。現状で両者の打力の差は、それほどないと言えるだろう。木浪に対して北條はプロでは6年先輩。キャリアの差を生かして、打席での対応力向上を図りたい。

目指すは鳥谷の打率と守備率

もうひとつ、ポジション争いでポイントになるのは守備力。遊撃は守備力が重要視されるポジションである。鳥谷敬が阪神で長らく遊撃のポジションを不動のものとしていたのも、遊撃手で4度のゴールデングラブ賞を受賞した守備力があったからだ。

今季の北條は46試合と出場機会が少なかったにも関わらず、11失策で守備率は.933。木浪も守備率はリーグトップの中日・京田陽太の.985から水をあけられて、リーグ5位の.966。失策はリーグ最多の15を記録している。遊撃守備の面では、ともに心もとない。

ブレイクの兆しを見せた2016年の北條は、三塁での出場が64試合と最多だったが、遊撃でも41試合に出場して守備率.981を記録したように、守備のポテンシャルが低いわけではない。今季の阪神はリーグ最多の102失策を犯し、守備力アップはチームの喫緊の課題でもあるだけに、堅実さを身に付けたい。先述のソフトバンク・今宮は今季6失策、守備率.986と安定している。

来季から鳥谷はいない。北條がショートのレギュラーをつかむには、鳥谷が阪神で残した遊撃の通算守備率.984、打率.280が目安になるだろう。

吉田義男、藤田平、真弓明信、平田勝男、久慈照嘉、鳥谷敬…。阪神には歴代の名ショートがいた。「ポスト鳥谷」を巡る争いは、2005年から遠ざかるペナント制覇への大きなカギでもある。