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大きく緩和されたツール・ド・フランスの新型コロナ対策、国内情勢を反映か

2021 6/30 06:00福光俊介
大観衆が見守る中で第1ステージがスタートⒸ福光俊介
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Ⓒ福光俊介

いたるところで「密」が発生するツール・ド・フランス会場

自転車ロードレース最高峰の大会「ツール・ド・フランス」の2021年大会が6月26日に開幕した。昨年は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響により、実施が2カ月遅れだったが、今年は2年ぶりとなる通常開催が実現。バカンスシーズンを迎えるフランスの風物詩としての趣きが戻っている。

さてそんな中、レースと並んで注目が集まるのは新型コロナウイルス対策。選手を筆頭に、大会に携わる人たちから感染者を出すことなく3週間の会期をまっとうできるのか。世界の目が注がれている。

現地でレースに帯同し取材する筆者から見て、今大会の新型コロナ対策は「昨年と比較してはるかに規制が緩い」と感じるものである。

前回大会では、会場内外を隔てる壁で四方を仕切ったり、感染拡大が進む地域ではフィニッシュ前数百メートルをバリケードでふさぐなどの対応で、一般客の入場を制限した。また、いつもであれば熱狂的なファンが集まる山岳区間でも、時間規制を施して観戦を事実上不可能にしたりと、主催者はありとあらゆる策を講じた。日によって規制の強弱はあったものの、こうした取り組みが奏功し選手・チーム関係者からの感染者は出ることなく、大会は成功裏に終わった。

迎えた今年。あくまでも開幕地・ブレスト(フランス北西部の都市)での印象ではあるが、昨年ほどの細かい制約は今のところ見られない。6月24日に行われたチームプレゼンテーションでは、大会関係者や招待客に入場を限定したものの、場外からの“覗き見”は不問とされ、結果的に会場周辺には多くの観衆が集まっていた。

チームプレゼンテーション

ⒸA.S.O./Charly Lopez


昨年であれば、スタートライン前後100m、フィニッシュライン前300mへの一般客の立ち入りは原則禁止となっていたが、今年はそうした規制は実施されそうにない。実際、開幕日に実施された第1ステージでは、スタートライン付近に観客が密集。まさに、日本でいうところの「密」が発生していた。

主催者の新型コロナ対策慣れやフランス国内情勢が大会運営に直結

実際のところ、この盛り上がりこそツール・ド・フランスの本来の姿である。一方で、日本人の感覚からすると、新型コロナ対策は緩いと言わざるを得ないのも事実だ。

こうした対応が進む要因としては、主催者A.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)が新型コロナ禍でのレース運営に慣れてきたことが挙げられる。手探りで進めた前回大会で一定以上の成果を上げ、今年に入っても同社が主催するレースではほぼノートラブル。腰を据えて今大会を迎えられている点は大きい。

加えて、フランス国内の情勢が強く反映されていると見ることもできる。同国の新規感染者数は減少傾向にあり、1日平均人数のピークだった昨年11月上旬の4%程度まで下がっている。大会開幕前日の25日の新規感染者数は1796人と、1709人だった同日の日本とほぼ同程度の数字にある。国内でのワクチン接種も軌道に乗りつつあり、25日時点では1回以上摂取した人が国民の49%、必要回数の接種を完了した人が同じく27%を数える。

さらには、6月に入り同国政府が定める各種規制の緩和が急激に進んだ。9日に日本を含む一部の国からのフランス入国規制を緩和。17日には屋外でのマスク着用義務を解除(大人数が集まる場所はのぞく)し、20日には午後11時以降の外出禁止令も解除した。

バカンスシーズンに合わせるかのように、フランス国民の行動範囲を広げるいくつもの決定。これらは、ツール・ド・フランスの運営にもリンクしていると推察される。

厳格なチームバブルで選手たちを守る

もちろん、昨年から継続して採用される新型コロナ対応もいくつかは存在する。

最も重要視されているのが、「チームバブル」だ。これは出場チームの選手・スタッフが該当し、大会関係者や取材者、一般客などのいわゆるバブル外の者との接触は基本的に行われない状況が整っている。レースそのものはもとより、スタート・フィニッシュ会場での選手の行動範囲が定まっており、取材対応は主催者設定のミックスゾーンに限定。このゾーンでもソーシャルディスタンスが保たれる。

選手の取材はミックスゾーンに限定

Ⓒ福光俊介


筆者のようなプレスIDを持つ取材者には、大会合流72時間前以内に受検したPCR検査の陰性証明提出が義務付けられる。もちろんマスク着用も必須だ。

スタート・フィニッシュ会場では、消毒ジェル入りのタンクを背負った「消毒隊」が多数スタンバイ。これも昨年から導入されており、彼らは取材者や一般客問わず消毒することを呼び掛けている。

選手の取材はミックスゾーンに限定

Ⓒ福光俊介


今年の開幕地となったブレストでは、大会本部が置かれた建物内にPCR検査室が設けられた。主にはチームバブルが対象だったが、必要に応じてその他の大会関係者の受検も許可。検査は鼻スワブ法で、実施から24時間以内には結果が出るという。

なお、フランスではワクチン未接種の人に対し、入国前72時間以内のPCR検査または抗体検査の陰性証明が義務付けられている。今大会では後半に隣国アンドラへ足を運ぶが、新型コロナ対策に関する特例はなく、いったんフランス国外に出た者は検査が必要であるとしている。

これを受け、主催者はアンドラの首都アンドラ・ラ・ベリャに関係者向けの検査場を設ける方向で調整中。このままフランス政府の決定に変化がなければ、筆者を含めて大会にかかわる多くの人が受検することとなる。

3週間のフランス一周の旅、感染者を出すことなく完走できるか

いまなお大きなリスクがある中で、最終目的地・パリまで順調に進むことができるだろうか。

第108回のツール・ド・フランスは、7月18日までの会期で熱戦が繰り広げられる見込みだ。

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