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ハンドボール日本代表が36年ぶり自力でパリ五輪出場を決めた強さの理由

2023 10/31 11:00田村崇仁
パリ五輪出場を決めたハンドボール男子日本代表,ⒸJHA/Yukihito Taguchi
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ⒸJHA/Yukihito Taguchi

かつては「中東の笛」や韓国の壁、元エース宮崎大輔も祝福

かつて中東勢に有利な判定が下される「中東の笛」が横行し、韓国の壁にも苦杯をなめさせられてきたハンドボール男子の日本代表「彗星JAPAN」が負の歴史を断ち切り、中東カタールの地で逆境をはねのけて「ドーハの歓喜」を迎えた。

くしくもサッカー男子が1993年に「ドーハの悲劇」を経験した日と同じ10月28日。ハンドボール男子のパリ五輪アジア予選の決勝が因縁のドーハで五輪出場1枠を懸けて行われ、日本はバーレーンを32-29(前半18-13)で下してパリ五輪出場権を獲得した。日本が開催国枠で出場した2021年東京五輪を除けば1988年ソウル五輪以来、実に36年ぶりの自力出場となる。

ハンドボール界の元日本代表エースとして長らくけん引してきた42歳の宮崎大輔は取材に「この時を待っていた。日本ハンドボールの第一歩!まさにドーハの歓喜です。ここからが世界と勝負」と後輩たちの奮闘に喜びのコメントを寄せた。

海外組と国内組が融合した日本は今大会、1次リーグB組でクウェートを破るなど4戦全勝で1位突破。準決勝では宿敵韓国に34-23で快勝し、決勝でも地元カタールを破って勝ち上がってきたバーレーンを1次リーグに続いて退けた。

司令塔の安平光佑、吉田守一ら海外組が融合、GK陣も好守連発

日本が強くなった理由の一つは海外組と国内組の化学反応だろう。バーレーンとの決勝で日本の攻撃を引っ張ったのは、23歳の司令塔、安平光佑だった。

欧州チャンピオンズリーグ(CL)に日本人男子選手として初出場して得点し、今季から北マケドニアリーグのRKバルダルでプレー。屈強な相手守備をかわす変幻自在の動きで「ファンタジスタ」とも呼ばれてきた大黒柱は、得意のカットインや7メートルスローなどでチーム最多の10得点と奮闘した。

フランスリーグでプレーするポスト役の22歳、吉田守一も効果的な4得点に加えて190センチの体格を生かしたパワフルな守備で強さを発揮。圧倒的なスピードと高精度のシュートで5得点と活躍した元木博紀(ジークスター東京)やフランスでプレー経験もある194センチの部井久アダム勇樹(ジークスター東京)ら国内組ともうまく融合して得点を重ねた。

前半18-13と5点リードで折り返しながら、後半は19-18と1点差に迫られる場面もあったが、GK陣が奮起。途中出場の坂井幹(大崎電気)が顔面でシュートを防ぎ、中村匠(豊田合成)も相手の7メートルスローを相次いで止めるなど気迫の好セーブが光った。

試合終了が告げられると、コートに苦闘を乗り越えたチームの歓喜の輪が広がり、主将の東江雄斗(ジークスター東京)は自身のツイッターで「みんなの支えがあったからこそ」と感謝。パキスタン人の父と日本人の母を持ち、東京五輪にも出場した部井久アダム勇樹はSNSに「夢が叶いました。さいこーーーーーー!!!」と感激をつづった。

シグルドソン監督の下、大型化の継続強化も実る

2017年から指揮を執るアイスランド出身のダグル・シグルドソン監督の継続的な強化も実った。就任当初から日本の課題は「フィジカルと経験」と指摘していた通り、今大会は190センチ台の大型選手を8人招集。中東勢や韓国にもゴール前で当たり負けせず、日本の持ち味であるスピードを生かした攻撃と組織力だけでなく、攻守にパワーでも成長を見せた。

シグルドソン監督は2016年リオデジャネイロ五輪ではドイツを銅メダルに導いた名伯楽。2015年には国際ハンドボール連盟の年間最優秀監督にも選ばれている。現役時代は母国アイスランドの主将を務め、2004年アテネ五輪に出場。2000~2003年に日本リーグの湧永製薬でプレーした経験もあり、日本への理解も長期強化で深めてきた。

日本は開催国枠で出場した2021年の東京五輪で1勝4敗の11位と厳しい結果に終わった。シグルドソン監督は日本協会を通じ「とても信じられない気持ちです。信じられないくらいのことを成し遂げました。過去7年間日本代表に参加してくれた選手みんなに感謝したい」とコメントを寄せた上で「今回は海外組と国内組との融合が心配されましたが、チーム内のコミュニケーションが非常にうまくいき成功したことが大きかった。しかしながら、道は続きます。ハードワークを続けなければなりません。成し遂げたことに満足して進歩の歩みを止めてはなりません」とさらなる成長も促した。

6戦全勝でアジアを勝ち抜いた日本「彗星JAPAN」がパリで世界にどこまで旋風を起こせるか。東京五輪の雪辱を期し、大きく成長した日本の活躍を今から楽しみに待ちたいところだ。

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