人手不足に悩む中小企業で男性育休を進めるには? 積極的な企業「将来への投資になった」 若手の確保に有効

熊崎未奈 (2021年8月3日付 東京新聞朝刊)
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育児のため休暇を取得予定の亀山さん(左)と話す社長の岩田さん=岐阜市のアース・クリエイトで

変わるか男性育休

 改正育児・介護休業法の成立を受け、企業には来年4月から、男性従業員に対する育休取得の働き掛けが義務付けられる。ただ、人手不足に悩む中小企業からは「代わりの働き手がいない」などと否定的な声も漏れる。法改正に先駆けて男性の育休推進に取り組む中小企業では、どのような工夫を重ね、成果を上げているのか。

「有給取得もゼロ」から働き方改革

 従業員24人の建設会社「アース・クリエイト」(岐阜市)。外の現場で働く亀山敬吾さん(29)は、10月の第1子誕生を心待ちにしている。生まれたら、満1歳になるまで最大2週間取得が可能な社独自の特別有給休暇を取るつもりだ。「新生児の貴重な時間を一緒に過ごしたい」と喜ぶ。

 男性の育休取得推進は、15年ほど前から取り組む働きやすい職場づくりの一環。社長の岩田良さん(41)は「社員の幸せが第一。良い環境を提供できれば、意欲も上がる」と話す。

 同社ではかつて、年次有給休暇(年休)を取得する社員はほぼゼロ。不満は大きく、入社から5年以内にほとんどがやめていった。

業務を共有し、仕事を「見える化」

 そこで、一から働き方を見直した。普段から社員二人がペアになり、業務内容や予定を共有。社全体の仕事の予定や進捗(しんちょく)もスマートフォンで見られるようにした。仕事量を「見える化」し、育休に限らず休みを取りやすくした。

 社独自の男性育休は、2007年の導入以来、延べ14人が取得。入社後に短期間でやめる人はいなくなり、売上額は2011年度からの10年間で2.5倍に伸びた。岩田さんは「働きやすさを目指した結果、生産性も上がった」と話す。一連の取り組みは、厚生労働省の「イクメン企業アワード」などで表彰された。

取得率100%「サカタ」の取り組み

 会社にこうした特別有給休暇がなくても、法律は子が1歳になるまで育休を取れると定めている。ただ、男性の取得率は8%(2019年度)に満たない。そうした中、100%を誇るのが、屋根の部品を製造するサカタ製作所(新潟県長岡市)だ。従業員154人のうち延べ22人が、平均20~30日間を取得している。

 社員の残業時間の長さに危機感を覚えた社長が、男性の育休推進を宣言したのは2017年。ただ「当初は育休なんて、という雰囲気」と総務部長の樋山智明さん(54)は明かす。そのため、配偶者の妊娠が分かった時点で、上司との面談を通じて抱えている仕事を割り振ったり、表計算ソフトを使い、給付金などで収入がどれだけ補償されるかを説明したり。昨年までは育休を取った社員とその上司らの表彰もした。「会社として『取ってほしい』という姿勢を押し出した」という。

義務化に反対の業界 運輸、建設…

 メディアに取り上げられるなど知名度が上がり、採用には困らなくなった。「育休推進は将来への投資になった」と樋山さん。「人手が足りないと思い込んでいるだけでは」と話す。

 ただ、日本商工会議所などの昨年7~8月の調査では、全国の中小企業約2900社のうち、70.9%が「男性の育休取得の義務化に反対」と回答。特に、運輸、建設、介護・看護業など人手不足感の強い業界で割合が高かった。

 中央大ビジネススクール准教授の高村静さん(54)は、中小企業が男性育休を打ち出すことは「働きやすさを重視する若手の確保に有効」と指摘。業務の属人化を見直す契機にもなり「介護や病気で休む社員への対応にもつながる」と話す。コロナ禍でテレワークが広まったように「まずはやってみて成功事例をつくることが大事」と強調する。

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  • 匿名 says:

    男性社員の耳を貸してくれる環境と事例をつくるってとても大切だと思いました。私の働く会社では、若い男性が活躍し、これから新たなライフステージを迎える社員たちです。きっかけはワーキングマザーが声を必要性を話したことにあったそうですが、将来当たり前に産休と育休が取得できる環境を整備するために、パパデビュー応援という産前産後に取得できる有給付与の制度を整え、この夏1名取得しました。リモートワークが可能な環境もあり里帰りをして出産に立ち会いもできたそうです。これで事例ができたので、後に今後続く社員もきっと取りやすいですし、当たり前に周りからも「取らないの?」という環境になると思っています。こういったことに耳を傾けてくれる社員が多いと、男女問わず働きやすい環境になるのだろうなと思っています。

      

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