線状降水帯はなぜ発生する?その原因・特徴・メカニズムに加え、とるべき避難行動について解説
2023年10月25日
2021年6月より気象庁は新たに、世間に広く認知されつつある「線状降水帯」のキーワードを使用し、より危険を伝えるべく「顕著な大雨に関する情報」の運用を開始しています。
いつどこで発生してもおかしくない線状降水帯について、自分や周りの大切な命を守るためにも、日ごろから知識を深め、備えをしておきましょう。
線状降水帯の定義
通常、積乱雲は雨を降らせると1時間程度で消滅してしまいます。
線状降水帯の場合でも同様で、1つ1つの積乱雲は雨を降らせるとたちまち消滅してしまいますが
次々と発生した積乱雲が、積乱雲群となって同じ場所を通過することで長時間の強雨をもたらし水害を発生させるのです。
線状降水帯(バックビルディング型)と発生しやすい地域
ここではその中でも、長時間の大雨をもたらし災害に直結する恐れが特に高い「バックビルディング型」線状降水帯について説明します。
「バックビルディング型」線状降水帯の特徴として、地上付近の風(下層風)と上空の風(中層風)が同じ方角であることが挙げられ、発生しやすい地域として西日本、特に九州地方での発生事例が多くなっています。
線状降水帯発生の流れ
大気の状態が不安定な状態の中で、雨雲は積乱雲にまで発達し、さらに次々と積乱雲が発生します。
上空の風がこの積乱雲を押し流すことにより、発生した積乱雲が列になります。
これにより、同じ場所で長時間の強い雨となります。
この結果、上空から見ると線状に連なる強い降水域が、同じ場所で停滞しているように映るのです。
特に、雨雲発生の条件である「暖かく湿った空気」の入り込みやすい西日本では、線状降水帯が発生しやすい地域といえます。
線状降水帯の災害事例
2020年7月の雨雲の様子(九州地方)
■平成29年7月九州北部豪雨
2017年7月5日から6日にかけて、活発化した梅雨前線の影響で、九州北部を中心に局地的に非常に激しい雨が降りました。梅雨前線に向かう下層の暖湿気流と、上空の寒気の流れ込みによって、大気の状態が非常に不安定になり、積乱雲が発達して線状降水帯を形成し、継続して同じ場所に強い雨を降らせたことが原因でした。
2日間の総降水量が、福岡県朝倉市朝倉で586.0mm、大分県日田市日田で402.5mmを観測するなど、福岡県や大分県で記録的な大雨となりました。この大雨により、5日17時51分に福岡県、19時55分に大分県に大雨特別警報が発表されました。また、土砂災害や堤防の決壊などによる浸水害が発生し、死者37名、行方不明者4名の人的被害や家屋の倒壊など、多数の甚大な被害が発生しました。
同年の新語・流行語大賞に「線状降水帯」がノミネートされました。この頃から本格的に線状降水帯が注目され始めたと思われます。
■令和4年台風第15号による大雨
2022年9月23日に発生した台風15号「タラス」は、台風としてはあまり発達することはなく、暴風域を伴わなかったものの、23日夕方から24日明け方にかけて、静岡県など東海地方で猛烈な雨や非常に激しい雨が降り、線状降水帯が発生するなど記録的な大雨となりました。
24日午前6時までの24時間降水量の日最大値は、静岡市で416.5mm、静岡市鍵穴で405.0mm、藤枝市の高根山で403.0mm、森町三倉で360.5mmと、いずれも観測史上1位の値を更新しました。静岡市の9月の降水量の平年値は280.6mmですので、この雨で9月1ヶ月分にあたる降水量の約1.5倍の雨が降ったことになります。
線状降水帯は、梅雨前線に伴って梅雨時期に発生・注目されることが多いですが、台風接近時も線状降水帯が発生することがよくわかる事例です。
顕著な大雨に関する気象情報について
警戒レベルと防災気象情報(2021年5月20日に改定されました)
注意してほしいのは、この情報が発表される時というのは「線状降水帯」が発生していると同時に「警戒レベル4相当」以上となっていることです。
「警戒レベル4相当」は、土砂キキクル(危険度分布)や洪水キキクル(危険度分布)が"極めて危険"などになっている状況で「線状降水帯」が発生せずとも、すでにかなり危険な状況を意味します。すなわち「線状降水帯」+「警戒レベル4相当」という状況の際には、すでに避難が完了している状態が望ましいと言えるでしょう。また、「警戒レベル3相当」以下であっても決して安全とは言えません。「線状降水帯」による多量の降水では、すぐに「警戒レベル4・5相当」へと状況が悪化することも考えられます。
雨の多いこれからの時期、常に最悪の状況を想定して動くことが命を守ることに繋がります。まずは、自分の身は自分で守れるよう、これら防災気象情報の意味を理解しておくことが大切です。
[参考]
土砂キキクル(危険度分布)
洪水キキクル(危険度分布)
顕著な大雨に関する気象情報
線状降水帯が発生した場合にとるべき具体的な行動「屋内避難」
土砂災害は、雨が弱まったり止んだりした後でも発生する場合があります。土砂災害の前兆は、斜面のひび割れ、異様な音・におい、湧き水が止まる、濁った水が噴き出すなどです。このような前兆を見つけた時には、すぐに斜面から離れてください。
河川の増水・氾濫も大雨のピークが過ぎた後に発生する場合があります。雨が弱まっても川には絶対に近づかないでください。
詳しくは、以下のページをご確認ください
・大雨が発生したときは
https://tenki.jp/bousai/knowledge/532ba20.html
・大雨で避難するときは
https://tenki.jp/bousai/knowledge/541fc60.html
普段からできる線状降水帯への備え
■ハザードマップや避難場所の確認をする
ハザードマップは、その地域で予測される自然災害の危険度の高さを示した地図のことです。各自然災害発生時の危険エリアや、避難場所・経路などの防災関連施設の位置を確認できます。ハザードマップは各自治体で作成されていますので、普段の生活範囲の危険エリアを事前に把握するようにしましょう。
※ハザードマップの見方のポイントはこちら
https://tenki.jp/forecaster/r_anzai/2022/03/04/16359.html
■非常用グッズの確認をする
万が一に備えた非常用グッズをリュックにまとめておきましょう。非常用グッズの使用期限や消費期限は定期的に確認しましょう。避難時に必要なものは、日頃からリスト化しておくと便利です。
万が一の断水に備えて、飲料水やトイレなどの生活用水の確保をしておきましょう。
生活用水の確保は、浴槽などに水を張っておくとよいでしょう。
スマートフォンや携帯電話は、万が一の際に連絡を取ったり、情報を入手したりする手段として、必需品となっています。停電に備えて、あらかじめスマートフォンや携帯電話、充電器の充電をしておきましょう。
ノートパソコンも同様です。また、ノートパソコンは、充電器の代わりとして使用することも可能です。
※備蓄品を用意するポイントはこちら
https://tenki.jp/bousai/knowledge/48ae160.html
※避難所にもっていくものはこちら
https://tenki.jp/bousai/knowledge/4a965e0.html
※配慮が必要な方の備蓄品はこちら
https://tenki.jp/forecaster/r_anzai/2022/03/05/16371.html
■溝や雨どいをこまめに掃除する
側溝や雨どいにゴミなどが溜まっていないか確認しましょう。側溝が詰まっていると雨水がうまく流れず、溢れ出す可能性も高まります。
■浸水に備えて土のうや水のうなどを用意する
土のうは自治体などで配布しているところもあります。土のうの入手が難しい場合は、二重にした大きめのゴミ袋に水をためて作った水のうを代わりに使用しましょう。水の侵入を防ぐため、玄関などの水の侵入が考えられる場所に、土のうや水のうを設置しましょう。
線状降水帯は、条件さえそろえば、どの地域で発生してもおかしくない現象です。大切な命を守るためにも、日ごろから正しい知識を得ると共に、正しい備えをすることが大切です。