阪神は12日の巨人戦(東京ドーム)に2―1で勝利し、ヤクルトとのゲーム差を再び「2」とした。試合は2回に飛び出した近本光司外野手(26)の先制2点適時打を、先発・青柳晃洋(27)からの継投策で逃げ切る薄氷の勝利。綱渡りが続く今後も、終盤の攻撃の〝切り札〟がより重要度を増しそうだ。 


 燕追撃には、負けはもう許されない。執念で巨人を退けた矢野燿大監督(52)は試合後「もう1本、2本タイムリーとか…しんどいよね」と、終盤はピンチの連続ながら何とか逃げ切り、安堵の表情だ。この日は4番・大山が背中のハリで欠場。直前までの5試合で12得点の打線はさらに攻撃力がダウンしただけに、切実なボヤキ節でもある。

 そんな状況下でも、勝たなければならない使命は変わらない。少ない好機を確実にいかすために今後、より重要度が増すのが僅差の展開で送り出す代走要員だ。

 盗塁はもともと現在、リーグトップの中野が27、不動の1番・近本が23と1・2番コンビにも韋駄天が並ぶ阪神だが、本紙専属評論家・伊原春樹氏は「ヤクルトにないものも、阪神にはあります」と話す。終盤、ここ一番での代走で登場するスペシャリスト・植田海内野手(25)だ。

 チーム全体で107盗塁のうち、その約10分の1の10盗塁を記録する男は、内・外野を守れるため「代走→守備」の途中出場が中心。それでも盗塁成功率は9割超えで、盗塁のほとんどを終盤、敵バッテリーの警戒度が最も高い中で決めている。

 伊原氏が絶賛したのは6―6で引き分けた9月24日の巨人戦。1点を追う最終回、巨人・ビエイラに対し、先頭打者が四球で出塁すると代走で登場。初球で二塁を陥れ、次打者の安打で本塁に生還したシーンだ。「鈴木尚広を思い出しましたよ」と通算228盗塁、代走で132盗塁のかつてのGのエースランナーをほうふつとさせたという。

「ただ、足が速いだけではできない仕事。失敗したら試合自体が〝終わり〟なあの場面で、成功するにはクイックの特徴とかクセなど、日頃から相当な研究していないとスタートすら切れない。それを初球から行くわけですから。私が巨人にいたときも随分、鈴木尚に助けてもらいました。終盤で競ってさえいれば本塁打でなくても、一人で試合を変えられる。これは、阪神にしかない武器ですよ」(伊原氏)

 巨人がVを飾った2014年も鈴木は盗塁11ながら本塁への生還率は5割以上、25打席にもかかわらず、得点は28を数えた。植田も今季は5打数2安打で、すでに2桁盗塁をマークし、14得点。〝神の脚〟を持つ男は果たして、奇跡の逆転Vの使者となれるか。