逆境に強い男だ。大相撲秋場所12日目(19日、東京・両国国技館)、関脇貴景勝(23=千賀ノ浦)が幕内妙義龍(32=境川)を突き落としで下し、10勝目(2敗)。1場所で大関に復帰するための条件をクリアした。優勝争いでも単独トップに立ち、史上初の「大関復帰V」も現実味を帯びてきた。今場所前は十両貴ノ富士(22)の暴力問題で部屋が揺れる中で、驚異的な精神力の強さを発揮している。

 貴景勝が10勝目を挙げて大関復帰を決めた。取組後は「自分の中で今日は邪念がなかった。(10勝は)場所前からの一つの目標だった。ひとまずクリアしたなと」。表情を崩すことはなかったものの、どこか安堵感も漂わせた。現行制度以降、1場所で大関に復帰したのは6人目(7例目)。12日目での10勝目到達は最速記録だ。

 この日は星で並んでいた幕内明生(24=立浪)が3敗に後退したため、優勝争いでも単独トップに躍り出た。大関から陥落した関脇が優勝すれば、史上初の快挙となる。

 今回も逆境をはね返した。今場所が始まる直前には兄弟子の貴ノ富士による付け人への暴力行為が発覚。本番を控えた部屋が大きく揺れる中、貴景勝は「自分に影響は全くない。相撲に集中するだけ」と言い切った。

 秋場所中の朝稽古の稽古場には、普段は姿を見せない週刊誌のカメラマンが数日間にわたり“侵入”する出来事があった。貴景勝自身、6月の大関昇進披露宴をめぐる“騒動”が週刊誌上で取り上げられたことがある。部屋サイドは緊張と警戒感を強めたが、貴景勝の心が土俵上で乱れることは全くなかった。

 貴景勝が逆風下で力を発揮するのは今回に限った話ではない。昨年9月場所後には前師匠で元横綱の貴乃花親方(47=花田光司氏)が電撃退職し、千賀ノ浦部屋に移籍。環境が大きく変わる中で迎えた11月場所で見事に初優勝を果たした。また、一昨年の秋巡業では元横綱日馬富士(35)による兄弟子だった元幕内貴ノ岩(29)への傷害事件、昨年12月の冬巡業では貴ノ岩による付け人への暴力騒動が発生。その直後の本場所でも、
貴景勝は好成績を残している。

 しかも、今場所は貴景勝自身が長期休場明け。場所前の関取衆との稽古量も少なく、親方衆の下馬評は高くなかった。それだけに、ここまでの活躍はサプライズ。

 日本相撲協会の八角理事長(56=元横綱北勝海)は「場所前は“大丈夫かな?”と思っていた。精神面が強い」と舌を巻いた。貴景勝は残り3日間に向けて「120%の力を出せれば」。このままV2を達成しそうな勢いだ。