まさかの結末だ。大相撲の十両貴ノ富士(22=千賀ノ浦)が11日、現役を引退した。日本相撲協会は付け人に対する2度目の暴力行為が発覚した貴ノ富士に対して自主的な引退を促していたが、本人は現役続行を希望。代理人弁護士を立てて協会と争う構えを見せていた。これまでの一連の騒動は、いったい何だったのか。“電撃引退”の背景にあるものとは――。

 突然の幕引きだった。日本相撲協会は9月26日の理事会で、付け人に対する2度目の暴力行為が発覚した貴ノ富士に対して自主的な引退を促した。貴ノ富士は翌27日に会見を開き「処分はあまりに重く、受け入れられない。土俵に戻って相撲道に精進したい」と現役続行を希望。代理人弁護士を立てて協会側と争う構えを見せていた。

 そんな中で状況は急変した。この日、貴ノ富士の代理人は相撲協会へ引退届を提出。協会から連絡を受けた師匠の千賀ノ浦親方(58=元小結隆三杉)が引退を承諾し、同日付で引退届が受理された。自主引退を受け入れたことで、協会からは規定通りに退職金などが支払われる。ただ、最初の対決姿勢からすれば、貴ノ富士の「全面降伏」に等しい結末だ。

 27日の会見当初から“戦況”は厳しかった。貴ノ富士は自らの行為の非を認める一方で、同席した弁護士は相撲協会に対して体質改善や再発防止策の提示を強く求めた。その主張が正論かどうかは別にして、加害者側の貴ノ富士は反省や謝罪の姿勢を前面に押し出すのが会見の定石。見る者に、“議論のすり替え”との印象を与えた。実際、ネット上でも貴ノ富士に批判的な意見が大半を占めた。

 身内を信用しない姿勢も周囲の理解を得られなかった。師匠の千賀ノ浦親方だけではなく、双子の弟の幕内貴源治(22)とさえも連絡を絶ち、孤立化が加速。最後は味方と言える存在が誰もいなくなった。仮に法廷闘争に持ち込んだとしても“情状酌量”を訴える第三者がどれだけいたか。不利な立場を覆すことはできなかっただろう。

 この日に代理人が発表した文書では、貴ノ富士が引退を決断した心境について次のように記している。「(前略)協会の将来に失望しました。仮に、今回の処分の不当性が公に認められたとしても、今の協会内、相撲部屋内に私が戻るところはないでしょう。相撲を愛する者として、相撲を続けたいという気持ちに変わりはありませんが、この間の協会とのやりとりに疲れ果てましたので、引退することを決意しました」(原文ママ)

 どこまでが貴ノ富士の本心かは分からない。いずれにせよ、これ以上は勝ち目の薄い戦いを続けるメリットがなかったことは確かだ。最後は尻すぼみの印象を残して、角界を去ることになった。