大相撲の第69代横綱白鵬(36=宮城野)が現役引退の意向を固めたことが分かった。26日に千秋楽を迎えた秋場所(東京・両国国技館)は同部屋の力士が新型コロナウイルスに感染した影響で全休していた。一方で、3月には右ヒザの手術を受けるなど体は満身創痍。九州場所(11月14日初日、福岡国際センター)での復帰は目指さず、土俵に別れを告げる決断を下した。今後は日本相撲協会に親方として残り、後進の指導にあたる見通し。
 
 大相撲の長い歴史の中で「史上最強」と称された大横綱が、ついに現役生活にピリオドを打つ決断を下した。昨年は5場所のうち4場所で休場。横綱審議委員会(横審)からは「引退勧告」の次に重い「注意」を決議された。今年に入ってからも、苦難の連続だった。1月の初場所は新型コロナウイルス感染のため全休。3月には古傷の右ヒザの手術を受けた。

 7月の名古屋場所は6場所連続休場明けで自らの進退をかけて出場。千秋楽で大関だった照ノ富士(29=伊勢ヶ浜)と無敗同士の激闘を制し、全勝で45回目の優勝を果たして復活を印象づけた。ただ、相撲内容は全盛期から程遠く、メスを入れた右ヒザを含めて体は満身創痍。かねて目標に掲げていた東京五輪開催までの現役続行を実現させたこともあり、土俵と別れる決意を固めた。

 2001年春場所で初土俵を踏み、04年夏場所で新入幕。07年夏場所後に横綱へ昇進し、番付の頂点へ上り詰めた。得意の右四つで絶対的な強さを発揮し、左四つや突き押しでも取れる万能型力士として黄金時代を築いた。優勝45回をはじめ、通算1187勝、幕内1093勝、横綱899勝など数々の歴代1位記録を樹立。他にも横綱在位84場所(1位)、年間86勝(1位)、7場所連続優勝(1位タイ)、63連勝(2位)など輝かしい実績を積み重ねた。

 一方で、横綱としての「品格」も問われ続けた。たびたび張り差しやヒジ打ちなどの取り口が問題視され、土俵外の言動でも物議を醸した。勝負判定を巡る審判批判、千秋楽表彰式での万歳三唱や三本締めで注意や処分を受けた。横綱日馬富士の傷害事件(17年)では現場に同席しながら暴行を防げず「報酬減額」の懲戒処分となった。

 7月の名古屋場所でも、奇襲作戦や優勝決定後の雄たけびやガッツポーズに横審が苦言。八角理事長(元横綱北勝海)が注意する事態となった。それでも、成績以外の部分を含めて、これまでの大相撲に対する貢献は無視できない。朝青龍が10年2月に引退してから、角界は暗黒時代に突入。野球賭博問題や八百長問題など数々の不祥事に揺れる中で、一人横綱として土俵をけん引した。

 11年の東日本大震災発生時には被災地での復興土俵入りや、力士会会長として土俵の寄贈などに尽力。また、少年相撲大会「白鵬杯」を開催し、普及活動にも力を注いだ。幕内阿武咲(阿武松)ら大会出場者が後に角界入りして関取になるなど、競技の発展にも大きく貢献した。

 その白鵬は、19年9月に日本国籍を取得済み。今後は日本相撲協会に親方として残り、指導者として後進の指導にあたる見通し。自らの手で「白鵬2世」を育て上げることに注力していく。希代の大横綱の第2の相撲人生にも注目が集まる。