「信頼できる政治家」2000年前に語られていた本質 古代ローマ「祖国の父」キケロの今にも遺る言葉

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古代ローマの話なのにまるで今の日本の話のようです(写真:kelly marken/PIXTA)
増税、格差、政治とカネ、移民問題…約2000年前、ヨーロッパで広大な領土と栄華を誇った共和政ローマは、意外にも今の日本とも共通する多くの政治課題を抱えていた。古代ローマを代表する政治家・キケロは、汚職が横行する国家の中枢で諸問題と向き合い、政治家のあるべき姿を探求し続けた。その思想は、のちにアメリカ建国の父らなど多くの人々に影響を与えている。
古代ローマの最高官職・執政官(コンスル)をつとめ、「祖国の父」と慕われたキケロが語った、良い政策、そして信頼できる政治家の条件とは? 時代を超えて普遍的なキケロの言葉に、佐藤優氏が解説を加えた新刊『2000年前からローマの哲人は知っていた 政治家を選ぶ方法』より一部を抜粋しお届けします。

国家と個人、双方の利益にかなっているか

古代ローマは、社会的セーフティネットという点ではきわめて貧弱な、持てる者と持たざる者の帝国だった。
重税が課されることもあったが、大規模な軍隊を組織するには必要なことだった。紀元前2世紀以降、税負担を軽減して退役兵と都市の貧困層に土地と財産を再分配する法案が提出されるようになっていた。
キケロは、貧困者の負担をやわらげることに反対はしなかったが、論文『義務について』のなかで、政治家があまりに感傷的になることは危険だとして警鐘を鳴らしている。

個人の権利を守る場合、その施策が国にとっても利益となるか、少なくとも害とならないことを必ず確認しなければならない。

ガイウス・グラックス(注1)は、民衆に向けて大量の穀物の再分配を始めたが、これは国庫を疲弊させる結果となった。

マルクス・オクタウィウス(注2)が貧民に食料を配給したときは、それよりも穏便なやり方で実施したので、国家としても管理可能であり、困窮者は助けられた。つまり、彼は両者の利益に貢献したことになる。

*(注1)ガイウス・センプロニウス・グラックス。紀元前2世紀後半、兄のティベリウスとともに共和政ローマの急進的な政治改革を試みた。
*(注2)紀元前133年の護民官。同僚のティベリウス・グラックスの改革案に反対し、罷免された。
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