プーチン暴走の背景にあった「原子力30年紛争」 エネルギーをめぐる、もう1つのウクライナ戦争

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ロシア軍が占拠する前のウクライナ・ザポリージャ原子力発電所(写真・Ukrinform/時事通信フォト)

ロシアのウクライナ侵攻以来8カ月が過ぎた。今も膠着状態が続いている。その原因の1つに原子力エネルギーを巡る問題があることは、あまり知られていない。そこでこの問題をめぐって、興味ある2つの本を取り上げてみたい。

2つの本とは、フランスのジャーナリストであるマルク・エンデヴェルト(Marc Endeweld)の、『ロシア=ウクライナ紛争の裏にある隠された戦争』(Guerres cachées. Les Dessous du conflit Russo-Ukrainien, Seuil, 2022)と、『支配されたフランス』(L’Emprise. La France sous Influence, Seuil, 2022)である。

この2冊からいえることは、ウクライナ戦争の背景には原子力エネルギーをめぐるアメリカとロシア、そしてフランスの攻防があるというのだ。その攻防こそ、プーチンの戦争の口実(Casas belli)になっているというのだ。

1991年ウクライナ独立の最大の問題

ウクライナは、エリツィン政権発足直後の1991年8月にソ連から独立している。その際の最大の問題が、ソ連時代に建設された原子力発電所と原子力兵器の処理の問題であったといわれる。原子力発電は、原子爆弾の原料を生産する。ウクライナ・ザポロージャにある巨大な発電施設はそのまま、原子爆弾の製造工場になる。

そのままの状態だと、ウクライナは核保有国となる。そうなるとウクライナはロシアの最大の脅威となる。そこで1994年12月、ブダペストでこの原子力の問題についてロシアそしてイギリス、アメリカとの間で合意が形成された。

ソ連時代のウクライナには、数多くの原子力兵器が置かれていた。その数では、ウクライナはアメリカとソ連にならぶ世界第3の核保有国であったといえる。一方、独立後は不安定な政治とオリガルヒ(新興財閥)やマフィアの暗躍で、ウクライナから武器が大量に流れていった。

その意味で、核兵器に関する管理をロシアにまかせることは、当時必要な処置であったともいえる。1992年にはリスボンでの合意で、ロシアが原子力関係をすべて管理することが取り決められていた。

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