ウクライナ戦争1年、なぜ停戦へ至らないのか 地域紛争を超え、先進国と後進国の戦いへ

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2023年2月20日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪れ、ゼレンスキー大統領(左)に出迎えられるバイデン米大統領(写真・AFP=時事)

2022年2月24日にロシアとウクライナの本格的戦争が始まってから1年が経つ。しかし、現在まで停戦合意に至っていない。最新の兵器をもった2つの国の軍隊が行う本格的戦争は、もう長い間忘れていたものであった。

確かにアフガニスタン、イラクなどの地域で戦争はこれまでにもずっと続いていたが、それらの戦争は圧倒的に勝る近代兵器をもったアメリカ軍などによる戦いだった。

これは、多くの場合短期決戦で決着がつくか、そうでなかったらゲリラ戦に突入し、近代的兵器それ自体が意味をもたず、ずるずると長期の内乱状態へと進むかであった。それに比べると今回の戦争は、短期に決着がついた、アルゼンチンとイギリスが戦った1982年のフォークランド紛争以来の、国家間の本格的近代戦争である。

国家と国家との対立ではない戦争

しかし、今回の戦争をこれまで以上に複雑にしているのは、それが国家と国家との対立の戦争ではないことだ。問題の発端になっているドンバス問題は、すでに問題の範囲内にはない。

問題はNATO(北大西洋条約機構)とそれに対抗するロシアを含むBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国)の戦い、すなわち世界を分断する天下分け目の戦いへと変化している。そしてそれは、両国の背後に巨大な経済力をもつ両陣営の世界戦争による様相を呈している。

だから停戦合意はまったく問題になっていない。戦争を終わらせる話し合いの場すらできていない理由は、この戦争が旧来の先進国と勃興する後進諸国との雄雌を決める戦いになっているからだ。

しかも、それが2つの国の背後にいる中国とアメリカという、世界を二分する国の意地をかけた代理戦争の役割を負わされていることで、停戦合意の目途はますます遠ざかるばかりである。両陣営とも、妥協点を探ることを放棄している。しかもそれが国連の場での解決を困難にしている。これでは戦争は終わることはない。

この戦争が終わらないのは、戦争が維持されることで経済が繁栄すると思っている背後の国々の、平和のための代償となっているからでもある。こう考えると、19世紀のトルストイの小説『戦争と平和』(1869年)の話が思い出される。

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