羽生結弦の魅力は「獣」に変わる瞬間にある フィギュアスケートが与える深い印象と驚き

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NHK杯の公式練習での羽生結弦選手。ショート、フリーとも見どころ満載のプログラムを用意している(写真:田村翔/アフロスポーツ)

27日、フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ最終戦となるNHK杯が長野市・ビッグハットで開幕する。シリーズの上位6人が進むGPファイナルへの出場権をかけて、約1年ぶりの母国での試合となる羽生結弦は優勝候補の筆頭だ。2シーズン目を迎えるショートプログラム(SP)の洗練と進化、初めて和風のプログラムに挑み安倍晴明を演じるフリー「SEIMEI」。初冬の信州での焦点は多々あるが、個人的にはいつ「あの演技」の再来があるのかと、視線を送るばかりだ。

羽生結弦は「獣」である。

そう言い切ると、かなりの反目を受ける気がするが、それはもちろん、理知的なしゃべり方であったり、某CMで全開の「王子様キャラ」だったり、ファンクラブまでできた中国の女性が言う「日本の少女漫画の主人公みたい」な容姿だったり、反論材料には事欠かないのは確かだろう。だが、やはりそれでも羽生が最も羽生らしくあるのは、そのイメージすべてを覆してしまう瞬間にある。

忘れられない2012年ニースでの演技

これまでで最も印象に残った演技はどれか。そう聞かれれば、2012年、フランスのニースで開かれた世界選手権のフリープログラムだと答える。金メダルを獲得したソチ五輪でも、初めて日本一になった全日本選手権でもなく、それは日本男子では最年少記録となる17歳3カ月での世界選手権メダル獲得となった演技だった。

日本は寒さが残る3月だというのに、世界有数のリゾート地であるニースは「こんな暖かいところでフィギュアの大会をやってはいけないよね」と関係者が半ばあきれるほど、氷の世界とはかけ離れた陽光が照らしていた。会場は氷を張り、冷房を効かせ、世界選手権という大舞台のために整備されたが、やはり会場外の「陽気さ」のいくばくかはリンクにも観客席にも流れ込んでいた。仮設のスタンドに陣取った観客のスケーターを愛でる声援も、どこか違う「熱」を帯びていた。しかし、羽生の滑りはその熱をいったんは消す息吹を起こし、違う「熱」をもたらすものだった。

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