不動産チラシによくある「都心から~分」の表記 「都心」は東京駅を意味するも、本当に基点でよいのか?

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不動産チラシによくある「都心から~分」の表記 「都心」は東京駅を意味するも、本当に基点でよいのか?

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櫻井幸雄

住宅評論家

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不動産表記で「都心から~分」という文言を使う際、一般的に「都心 = 東京駅」とされています。東京駅を他の駅にするとイメージはどう変わるのでしょうか。住宅評論家の櫻井幸雄さんが解説します。

東京の基点は東京駅?

 千葉駅は都心から約40km・電車で40~50分、大宮駅は約30km・電車で20~30分、横浜駅は約30km・電車で約25分――首都圏で都心からの距離を示すとき、その基点は一般的に東京駅になります。

「東京駅は中心」だからと思われがちです。たしかに、大手町のビジネス街を日本経済の中心と考えれば、そして東京駅を始発駅とするJR路線が多いことを考えれば、東京駅が基点なるのは当然のことといえるかもしれません。

不動産チラシのイメージ(画像:写真AC)



 しかし、首都圏に暮らすすべての人が東京駅周辺のオフィスに勤めているわけではありません。また、JR東日本が発表している乗車人数ランキングの2019年版によると、JR東日本エリアで最も乗車人数が多いのは東京駅ではありません。第1位は新宿駅で、次が池袋駅。東京駅は3位なので、JR東日本の乗車人数だけでいえば、新宿駅を基点にしてもよさそうです。

 しかし、世界的な知名度でいえば「TOKYO」がずばぬけており、オーラの大きさからいっても、東京駅が基点となるのは収まりがよさそうです。

 さて、東京駅が基点になるのは当然として、そのことによって「得する場所」「損する場所」があるのをご存じでしょうか。なお、得する場所は都心に近い印象を与えられる場所で、損する場所は都心から遠いと思われがちな場所を指します。

 東京駅を基点にすることで得していると思えるのが、千葉県と東京23区内でも千葉県寄りの場所です。地図で見ると、東京駅が千葉県寄りに位置しているため、「都心に近い」ことをアピールできるからです。

吉祥寺駅より船橋駅のほうが近い

 例えば、23区内で千葉県寄りの東西線西葛西駅(江戸川区)は、東京駅から9km圏です。東京駅からの距離でいえば、新宿駅(東京駅から約10km)よりも近い――そう聞けば、西葛西駅の株が一気に上がる気がします。

 千葉県の浦安駅は東京駅から12km程度。中野駅(14km程度)よりも近く、自由が丘駅(約12km)と同等です。この結果を見ると、浦安は結構近いという気持ちになります。

 千葉県の船橋駅は東京駅から約20km。都下の吉祥寺駅(約22km)より東京駅に近いので、船橋在住の人は「吉祥寺より船橋のほうが上」と自慢したくなるかもしれません。

船橋駅の位置(画像:(C)Google)



 もちろん街に上や下はなく、船橋駅のほうが吉祥寺駅より東京駅に近いというだけの話なのですが、船橋駅の近くに住んでいる人は「吉祥寺よりも……」と胸を張りたくなるのではないでしょうか。

 つまり、東京駅が都内でも千葉県側の場所に位置しているため、千葉県および東京23区内の千葉県寄りの場所は

・東京駅に意外に近い
・都心に近い

という評価を得ることができ、得することがあるわけです。

遠くても便利な八王子駅

 一方、東京駅が千葉県寄りであるために損をしているというか、割を食っている印象が強い場所もあります。その代表が、東京都下の市部です。

 もちろん神奈川県と埼玉県も東京駅からの距離は長くなりがちですが、神奈川県の川崎駅は東京駅から18km程度、埼玉県の川口駅は16km程度で、そんなに離れた印象は生じません。

 ところが、東京都下の府中駅は東京駅から30kmも離れています。中央本線の国分寺駅も東京駅から30kmを超え、同線の八王子駅にいたっては東京駅から47kmとなります。東京駅から千葉駅は約40kmなので、八王子駅はずいぶん遠い印象になります。

八王子駅の位置(画像:(C)Google)

 ちなみに、首都圏で通勤圏とされる駅はだいたい「都心から40kmくらい」までに位置しており、45kmを超える駅は毎日通勤するのが厳しい場所と見なす人が多くなります。

 そうなると八王子駅は通勤困難駅の仲間入りしそうです。しかし同駅の場合、新宿駅から37kmほどなので、新宿通勤なら40km圏内なので問題ありません。

 また中央線の特別快速はスピードが速いので、八王子から東京駅までの所要時間は50分程度。時間で見ればそんなに遠いわけではありません。

 それでも東京駅から約47kmと聞くと、「ずいぶん遠い場所」という印象が強くなってしまいます。そのため、八王子駅で住宅を販売する場合、「東京駅から47kmの八王子」と説明することはありません。

 逆に、東京駅に近い西葛西駅では「東京駅から9km」を、浦安駅では「東京駅から12km」を積極的にアピールすることになります。東京駅を基点にして都心からの距離を打ち出すと、東京都下の市部と神奈川県は

・都心から離れている割に住宅価格が高い

という評価が生まれます。

どこを基点にすればいいのか

 不動産業界では以前から、都心の基点を東京駅ではない場所に設けたほうがよいという意見があります。

 例えば地図上では市ヶ谷駅あたりが山手線の中心部となります。市ヶ谷駅を基点とすれば、首都圏各地までの距離は均等になりそうです。

 しかし問題は、「市ヶ谷駅から20km」と説明してもピンとくる人がいないことです。わかりにくい場所を基点にすることはできないので、市ヶ谷駅は候補から外れます。

市ヶ谷駅の位置(画像:(C)Google)



 もうひとつ、都心部の住宅価格がとびきり高い場所を基点にしたほうがよいという案もあります。具体的には表参道駅です。

 銀座線、半蔵門線、千代田線が交わる表参道駅は港区内に位置し、渋谷区アドレスの場所が隣接しています。高級マンションが多いエリアですが、意外に一戸建て住宅地もあり、とびきり住宅価格が高い場所です。

 この表参道を基点にすれば、城南地区とよばれる港・品川・太田・世田谷の4区は「都心近くの住宅ゾーンなので、住宅価格が高いのも当然」ということになります。そうすれば、神奈川県の住宅価格相場が千葉県寄りも高い理由がはっきりするでしょう。

 表参道ならば、知名度の点でも申し分ありません。が、問題は「東京駅基点」がすでに多くの人に浸透していること。多くの人が慣れ親しんでいることを変更するのは簡単ではないのです。

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