【体験した児童は約9万人】“プラモデル授業”「ガンプラアカデミア」が教育現場から熱視線

体験した児童は約9万人

2021年10月にスタートした“プラモデル授業”「ガンプラアカデミア」は、“ものづくりの楽しさ”などを学べる無償の授業パッケージ。既に多くの学校教育の場で導入され、注目を集めている。今回はこのプロジェクトを展開するBANDAI SPIRITSのデピュティゼネラルマネージャー・松橋幸男氏にインタビューを実施。「ガンプラアカデミア」というプロジェクトに取り組んだ経緯や、今後の展望について聞いた。

BANDAI SPIRITSのデピュティゼネラルマネージャー・松橋幸男氏


プラモデル授業「ガンプラアカデミア」とは


「ガンプラアカデミア」は、プラモデルの組み立て体験と配信映像を組み合わせた授業パッケージ。プラモデルの組み立て体験やプラモデル工場の見学動画など45分×4コマの授業を通して、ものづくりの楽しさやガンプラの生産過程、プラスチックのリサイクルなどのSDGs活動を紹介する。

授業で使用するプラモデルは「ガンプラトライアルキット RX-78-2 ガンダム」。パーツ数は、45分の授業時間内で無理なく組み立てられる51個で、サイズは小学生の手に収まる全高約100ミリ。パーツを極限まで少なくしているものの、しっかり可動するよう作っている。

小学生が無理なく組み立てられる51パーツで構成


――「ガンプラアカデミア」の取り組みに懸ける想いを教えてください。

【松橋氏】「ガンプラアカデミア」では、小学生向けに新規で金型から開発したガンプラの体験キットと配信映像を使い、小学校の先生が授業をします。その授業で一番、主眼に置いているのは、小学生たちにものづくりの楽しさを知ってもらうこと。また、ものづくりに携わる人々の想い、輝き、仕事のこだわりも感じてもらいたいと思っています。

【写真】授業で使用する「ガンプラトライアルキット RX-78-2 ガンダム」


――ありそうでなかった“プラモデル授業”。「ガンプラアカデミア」着想のきっかけは?

【松橋氏】ガンプラをはじめとしたプラモデルの生産拠点、静岡のバンダイホビーセンターでは、工場見学を実施していたのですが、来館者はやはり県内の方が多く、遠方からはなかなか行けないという声もありまして。そんななか、オンライン上で何かできないか?と話したのが発端となりました。その後になるのですが、コロナ禍は学校見学を止めていたということもあり…。結局、ホビーセンターでの工場見学自体も、ものづくりに携わる人々の想いや輝きに触れてもらいたいと考えて実施しているものだったので、その想いが「ガンプラアカデミア」へシフトしていった形です。

――「ガンプラアカデミア」がスタートするにあたって、一番苦労した点は何ですか?その問題をどう解決しましたか?

【松橋氏】我々は授業をしたことがなかったので、まずは小学校のカリキュラムにするということが一番のハードルでした。どうやってカリキュラムを作ったらいいのか分からなかったんです。いかに小学生に教えるのか。そこで、NHKエデュケーショナル様と、NPO法人企業教育研究会様にご協力、ご尽力いただき、文部科学省の学習指導要領に紐付いた指導案(教員向け資料)を制作しました。カリキュラムにするには、“子供たちに考えさせる”ということが大事でした。

さまざまな情報を発信しているガンダムというIP(知的財産)の強みがあるからこそ、いろいろな方にご協力やご賛同をいただいている部分もあるのかなと思います。「ガンダムが好き」だという先生方も多く、採用していただくにあたって、これも大きく関係しているのではないかと思います。

また、プラモデルの金型と成形においても苦労しており、難しい技術を用いています。今回は、組みやすさを重視したレイアウトでありながら、しっかり樹脂を流し込んでランナーを成形しなければなりませんでした。体験キットは簡単なエントリーモデルに見えるのですが、40年以上ガンプラを作ってきた当社の技術が詰まった自信作になっています。

「ガンプラトライアルキット RX-78-2 ガンダム」


今までに約9万人の小学生が参加


――これまでに授業を行った小学校の数と、体験者人数を教えてください。

【松橋氏】2021年10月から2022年3月までの半年間に参加した学校は約1400校で、体験した児童は約9万人になります。その児童のうち、8割が小学5年生。全国の小学5年生の約7%にあたります。

バンダイホビーセンター公式サイト「プラモデル授業」にて、2022年度の申し込みを受け付けていたのですが2年目も好調に推移しています。授業内容はバージョンアップを続けていますが、これからたくさんのご意見を聞いて、もっと良くしたいと構想を立てています。

――体験した子供たちの声はどんなものがありましたか?

【松橋氏】総じて「面白いね」と思ってもらえているようです。プラモデルを「初めて組んだ」という方、「自分で組めちゃった!」とビックリされている方もいらっしゃいました。また、ものに対する愛着も深くなったのかな?と、反応を見て感じました。

そんななか、我々が注目したのが「パーツがカチッとはまるのが気持ちいい」という表現でした。「楽しい」というのは、ショッピングセンターに行っても、映画館に行っても使う言葉だと思うのですが、「気持ちいい」という言葉は、もう1段階上の表現なのではないかなと思うんです。「ものづくりをして気持ちいいと思っていただけたんだ」という、うれしいお声でした。実は当社は、スナップフィット式(接着剤不要のはめ込み式)の“いい感じに決まるフィット感”にこだわっていて、そこを突き詰めて金型作りをしているので、分かっていただけたのがうれしかったです。

――実施した学校・教員の声はいかがでしたか?

【松橋氏】こちらも総じて「満足です」「人に薦めたい」という感想をいただいています。そんななか、「やって良かった!」と思ったのが、「子供たちが生き生きとしていた」「目を輝かせて取り組んでいました」という声をいただいたとき。学校教育のなかで、子供たちの表情が変わったり、目が輝くことってなかなか少ないのではないかな、と思いまして。生き生きと、目を輝かせながら、社会の勉強につながることができるというのは、今後の可能性も感じますし、学習として効果を発揮している点、体験・体感できる全く新しい授業という点でも高い評価をいただけたのは、良かったなと思います。

――プラモデル授業を行い、どんな「気づき」がありましたか?

【松橋氏】私個人の感想なんですけど、子供たちの“素”が見れたな、本質に気付けたなと。子供たちの、ものに対する興味や好奇心を目の当たりにして、意外と、昔と今って変わっていないなと思ったんです。現代社会の「あれはダメ」「これはダメ」という規制に順応している部分はあるのですが、そういうのを取っ払って、好奇心を刺激してあげれば、子供たちはものづくりということに対してもっと評価してくれるようになると思いますし、これからいろんな企業でアイデアを出したり、ものをつくりたいという人材も育っていくのではないかなと思いました。

「プラモデル授業で子供たちの本質に気付けた」と松橋氏


――「ガンプラアカデミア」は、最終的にどう発展させていこうと考えていますか?

【松橋氏】自分が言うのはおこがましくもあるのですが、日本のものづくりって優れた部分だと思いますし、世界に対して発信できるものだと思っているんですね。横浜の実物大の“動くガンダム”って、各専門分野の方々の技術が結集したものなんですが、「ガンプラアカデミア」が、そういった人材を輩出できるような、発端になればいいなと思っているんです。

日本では、小学生の児童の人口が各学年に約100万人程いるのですが、小学5年生100万人が毎年「ガンプラアカデミア」を体験してくれる、というのが今掲げている目標です。そのなかで、ものづくりの楽しさをいかに伝えるか。体感型の新しい授業の形として広めていきたいです。「昔、授業でガンプラ作ったよね」とか、「『ガンプラアカデミア』で何を作った?」とか、大人になってからそんな話で盛り上がったり、ものづくりで会話が広がっていく未来が作れたらいいなと思っています。ご意見をいただきながら、子供たちの心に刺さるものを提供する授業にしていきたいですね。

取材・文=平井あゆみ

■プラモデル授業『ガンプラアカデミア』概要

対 象:文部科学省が定めた小学校(※)
推奨学年:5年生
教 科:社会/我が国の工業生産(5年生)、総合的な学習の時間/特別活動、SDGsの学習として
教 材:学習指導案、動画視聴用ID、組立体験用プラモデルなど(全て無償)
提案時数:事前学習(45分×2コマ)、本時(45分×1コマ)、発展学習(45分×1コマ~)

※文部科学省が定めた学校とは、小学校、中学校、高等学校、大学、高等専門学校、特別支援学校および幼稚園のほか、専修学校、各種学校、保育所、学童保育などが含まれる中で、本授業は小学校を対象としています。

(C)創通・サンライズ

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