2024年4月27日(土)

2024年米大統領選挙への道

2022年6月17日

 今回のテーマは「イバンカの乱」である。昨年1月6日に発生した米連邦議会議事堂乱入事件を調査してきた下院特別調査委員会(ベニー・トンプソン委員長)は6月9日、公開公聴会を開催した。公聴会は午後8時から10時までのゴールデンタイムに生中継され、1900万人が視聴した。

 公開公聴会では連邦議会議事堂を襲撃したドナルド・トランプ前大統領を支持する極右集団オース・キーパーズと白人至上主義団体プラウド・ボーイズの幹部が、地下の駐車場で会い、会話を交わしている映像が紹介された。乱入事件は計画的であった。

 さらに衝撃的であったのは、トランプ前大統領の長女イバンカ氏の「爆弾発言」であった。同氏の発言はどのような意味を持つのか。そして公開公聴会は、トランプ氏の近い将来にどのような影響を及ぼす可能性があるのか――。

公聴会に出席したイバンカ氏(House Select Committee/AP/AFLO)

「政治ショー」の必然性

 下院特別調査委員会の公開公聴会を「政治ショー」と非難する声がある。与党民主党が物価高騰及びガソリン価格から米国民の目を逸らすために仕掛けたショーにすぎないというのだ。野党共和党議員の中には、ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)はどうして物価高騰に関する公聴会をゴールデンタイムに開催しないのかと批判する議員もいる。

 民主党が主導権を握る下院特別調査委員会は、11月8日の中間選挙の前に、トランプ支持者による連邦議会議事堂乱入事件に関する報告書を公表する構えである。

 ブッシュ(子)元政権の副大統領ディック・チェイニー氏の娘で、下院特別調査委員会のリズ・チェイニー副委員長(共和党)は、保守主義は「法と秩序」を重視すると主張し、1月6日のトランプ前大統領と支持者の言動を糾弾した。トランプ氏は20年米大統領選挙で自身を「法と秩序」の大統領と呼んだ。公開公聴会でチェイニー氏はトランプ氏こそ「違法と無秩序」の大統領であるというメッセージを発信した。

 チェイニー氏は下院ワイオミング州の共和党予備選挙でトランプ氏が推薦した「刺客」候補ハリエット・ヘイグマン氏に大苦戦を強いられている。共和党系の調査会社WPAインテリジェンス(南部オクラホマ州)の世論調査(22年5月24~25日実施)によれば、ヘイグマン氏の支持率は56%、チェイニー氏は26%であった。ヘイグマン氏が現職のチェイニー氏を30ポイントも上回った。

 ヘイグマン氏の選挙コンサルタントは、20年大統領選挙でトランプ選対本部長を務めたビル・ステピエン氏である。

 しかも、ワイオミング州共和党委員長はフランク・イーソン氏だ。イーソン氏は1月6日の乱入事件に参加した人物である。

 となれば、チェイニー氏はこの公開公聴会で、何としてでも政治的点数を稼ぎたいところだ。そう考えれば、乱入事件に関する公聴会は政治色が強くなっても全く不思議ではない。

民主主義擁護の必要性

 一方で、民主党はリスクを負っていることは確かである。というのは、今回の中間選挙では有権者は物価高騰やガソリン価格に基づいて投票する可能性が極めて高いからだ。有権者は連邦議会議事堂乱入事件の解明よりも、自分の生活に直結するガソリンや食料品価格に重点を置いている。

 米NBCニュースの世論調査(22年5月7~10日実施)によれば、「米国が直面している最も重要な争点」について「生活費」が22%を占めてトップであった。米ABCニュースが6月5日に発表した世論調査では、バイデン氏の争点別支持率はインフレ対策が28%、ガソリン価格が27%であり、56%のコロナ対策を大きく下回った。

 さらに、公開公聴会で民主党がトランプ前大統領を激しく叩けば、より多くのトランプ支持者が中間選挙で投票に行くことになる。つまり逆効果になってしまうのだ。

 それでも公開公聴会を開催するのは、連邦議会議事堂乱入事件は単なる議会襲撃ではなく、民主主義に対する攻撃であるからだ。議会は民主主義を擁護する必要性があった。


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